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しなやかなリーダーシップを育もう – Cultivating resilient and graceful leadership(2020年4月9日掲載) 音声読み上げ


立教大学 経営学研究科 准教授 西原 文乃


先日、大阪大学とダイキン工業株式会社による産学連携・リーダー育成プログラムである「インクルーシブ・リーダーシップ」で、次世代を担う女性の方々に講義をする機会を頂きました。その内容を、3つのポイントにまとめ直してお伝えします。このポイントは、私の研究分野である経営学の知識創造理論の重要な点でもあります。

1つ目は「人間の無限の可能性を解放しよう」、です。私たちは「私はこれが苦手」とか「これは私にはできない」など、自分の能力や才能に限界があると思い、自己限定してしまいがちです。しかし、知識創造理論では、人間には無限の可能性があると考えています。なぜなら、人間は豊かな「暗黙知」を内包しているのに、それに気づかず、十分に使えていないだけだからです。暗黙知とは経験から得られる主観的で身体的な知のことで、言葉にしづらい、特定の文脈に依存する、という特徴があります。メンタル・モデルやノウハウなど、知らず知らずのうちに私たちの思考や行動を左右しています。これに対して、形式知は客観的で理性的な知のことで、言語化でき、普遍化できるという特徴があります。理論や概念、マニュアルなど、一般化することができます。

暗黙知と形式知の関係は、氷山のメタファーで表すことができます(図1)。海面に出ているのが形式知、海面下の大きな部分が暗黙知で、暗黙知は見えている部分よりもずっと大きく深く広がっているととらえられます。

図1:氷山のメタファー

図1:氷山のメタファー

この暗黙知に気づき、言葉にすることによって、形式知が豊かになります。たとえば、研修で、「イノベーティブな企業と言えばなんですか?どんな特徴がありますか?」と問いかけてもなかなか意見がでないのに、「イノベーティブでない企業や組織と言えばなんですか?どんな特徴がありますか?」と問いを逆転させると、たくさんの意見が出ることがあります。これは「イノベーティブ」のものさしがちゃんと皆さんの中にある証拠です。ただ、普段はそれに気づいていない、つまり、ものさしが暗黙知に留まっているのです。これをしっかりと言語化していくことで、より多くの暗黙知が活性化されて形式知に変換されます。新たな形式知を使って思考や行動をすることで暗黙知もさらに増えます。これが、自己限定の殻を破り、無限の可能性を解放することにつながります。

2つ目は「イノベーションの基盤はダイバーシティとインクルージョン」、です。これは新たな知を創造しイノベーションを起こすための条件です。新たな知を創造するプロセスを「SECI(セキ)モデル」と言います(図2)。最初のフェーズは図の左上、直接体験の共有により共感をベースに暗黙知を生成する「共同化(Socialization)」。2番目のフェーズは右上、対話により暗黙知を言語化して形式知化し、概念を創る「表出化(Externalization)」。3番目のフェーズは右下、複数の形式知をつなぎ理論や物語りにする「連結化(Combination)」。4番目のフェーズは左下、モデルや物語りを実践し暗黙知を体現して増やす「内面化」です。このSECIモデルは1回のサイクルでは終わらず、絶えずスパイラルアップさせて知を創り続ける必要があります。

図2:SECIモデル

図2:SECIモデル
出所:出所:野中郁次郎、遠山亮子、平田透(2010)
『流れを経営する ―持続的イノベーション企業の動態理論』、東洋経済新報社に基づく

多様な経験や考え方、視点などを取り入れることがイノベーションの基盤です。なぜなら、新たな知や新たな組合せがイノベーションの種だからです。同じ経験や知を共有する組織では新たな知や新たな組合わせが少なくイノベーションが起きづらいですが、多様な知を包摂できる組織は新たな知を創りやすくイノベーションを起こしやすいのです。ただ、多様性は矛盾や対立を引き起こすことがあり、避けたいと思うかもしれません。しかし、知識創造理論では「あれか、これか」と排除するのではなく、「あれも、これも」と包摂することが新たな知を生むと考えています。

3つ目は「誰もがリーダーになれる組織は強い」、です。リーダーの役割の1つはこのSECIモデルをスパイラルアップすることです。そのためには、周りに影響を与えて組織を同じ目的へ導く必要があります。組織の1人ひとりが周りに影響を与え合い、同じ目的を目指すようにできれば、小さな力で大きな成果を出せます。これを知識創造理論ではフラクタル組織による全員経営と言います。1人が周りに与える影響が大きいことは、2020年春現在、新型コロナウイルスへの1人ひとりの責任ある行動を促す対策にも表れています。自己限定を破り、自らリーダーシップを取ることが重要です。

「人間の無限の可能性を解放しよう」、「イノベーションの基盤はダイバーシティとインクルージョン」、「誰もがリーダーになれる組織は強い」。この3つを実践して、強靭かつ優美な「しなやかなリーダーシップ」を共に育んで参りましょう!


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