【東京ブロック】アカデミア研究者の魅力と不安 − 母になってからのスタート(2020年11月2日掲載) 音声読み上げ
お茶の水女子大学 ヒューマンライフイノベーション研究所 特任講師 伊達 公恵
私のアカデミア研究者としてのスタートは遅く、結婚・出産後です。今の私は、大学の特任講師、3児の母です。保育園には14年以上お世話になり続けています。アカデミア研究者は、新しい発見ができ、喜びを感じることのできる魅力ある職業です。研究テーマや働き方に裁量が大きいため、私には働きやすく、やりがいのある職業です。一方で、安定したポストを獲得するのが難しく、不安が続く苦しさがあります。
1) 母になってからドクターコースに入学
私は、修士課程修了後に、研究職として製薬会社に就職しました。結婚し、夫の転勤に合わせて、特許事務所に転職後、母校にドクターコースの学生として戻りました。第一子が2歳の時でした。大学に戻ってからは、研究が楽しくて、やはり私はこれがしたかったんだと実感しました。この感覚は今でも変わらず続いています。ドクターコースの学生時代に第二子を出産し、投稿論文の対応実験のために0歳の子供を背負いながら実験して学位を取得しました。学振特別研究員DC2、PD、RPD、特任講師と何とか研究費をつなぎ、現在に至っています。学振特別研究員RPDの時には、アメリカ留学を実現しました。帰国してすぐに第三子を出産し、2ヶ月後に復帰しました。これまで研究が続けられたのは、大学の先生方、家族など周囲の助けと理解、学振特別研究員RPD制度や助成金の見えない女性枠に選んで頂いたからではないかと思っています。
2) 現在の研究について
公益財団法人ロッテ財団のロッテ重光学術賞の受賞によって、現在、大学から特任講師という職位が与えられ、テニュア職獲得を目標に最長5年間にわたり自身の生活費と研究費が支給されています。「食と健康」を大きなテーマとして、糖鎖と膵臓酵素をキーワードに機能性食品の創出を目指した研究を主に行っています。非常勤スタッフ2名とともに研究を進めています。今年度からは、お茶の水女子大学独自の子育て中の女性研究者支援として、補助者を週10時間雇用する支援を受け、これまでの人件費を研究費にあてることができています。
主な研究テーマは、生体内の糖鎖を介した消化酵素の機能解明です。消化酵素が糖鎖に結合することで、栄養消化のみならず糖吸収やインスリン分泌、細胞の増殖・分化に関わることが分かってきました。この新たな機能を利用して、食品成分の中から食後高血糖に効果のあるものを探しています。最近、有力な糖関連物質が見つかってきました。
製薬会社・特許事務所で勤務経験のある私には、一つの目標があります。それは、自分の研究を特許出願し、医薬品や機能性食品の創出につなげることです。糖鎖の機能解明を通して、食後高血糖だけでなく、膵臓癌や骨粗鬆症などの検出や予防・治療に役立てる研究にも力を入れています。今年、ある血中糖タンパク質がカテプシンK阻害活性を持つことを発見し、特許出願することができました。カテプシンKの阻害は骨粗鬆症等の治療に有効なため、血中糖タンパク質が骨粗鬆症の創薬シーズになるのではないか、と期待して研究を進めています。
3) 次の職探しの中で思うこと
「研究はいつまで続けられるのだろうか?」
この問いは、常に私につきまとっています。
私は、企業にいた期間が比較的長く、年齢に対して業績が少ないです。女性といっても子育て・介護などの有無、そのタイミングによって状況は様々です。日本には、明示していなくても暗黙の年齢制限があります。海外のように履歴書に年齢を記載することなく、学位取得後何年という採用の仕方であれば、私もテニュア職に届くのではないか、と思うこともあります。一方で、これらはただの言い訳でしかなく、もっと研究力があれば、問題にならないとも思います。ですが現実として、3人の子育てをしているこの状況下で、ストレートに学位を取得して多くの時間を研究に費やしてきた研究者に業績で上回るのは難しい現実を感じています。年齢の壁も感じています。現状どんなに頑張っても研究を続けられる立場ではいられなくなると不安に思う一方で、まだ頑張れば続けられる立場でいられるはず、という思いがいつも私の中にあります。
4) おわりに
現在の研究がもう少しで花開きそうなので、この研究を続けたい。テニュア職が得られたら長期的な計画をもって、色々な研究者と協力しあって、今より少し大きな研究ができると未来を思い描くこともあります。しかし、現実は難しいかもしれません。あの時この選択をしていなかったら職探しでこれほど悩まなかったのではないか、今後さらに歳を重ねる前に別の道を選んだ方が良いのではないか、と様々な思いが交錯します。
今、私は、できることをできる限りやり、研究を楽しもう!きっと道は開く!と自分に言い聞かせています。そして、後進の学生や子供たちに、自分の職業について前向きなことを伝えられる人になりたいと思っています。