第5次男女共同参画基本計画の特徴と大学など教育機関に期待されること(2021年7月6日掲載) 音声読み上げ
ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、昭和女子大学研究員、東京大学情報学環客員研究員
治部 れんげ
2020年12月25日、第5次男女共同参画基本計画(以下、5次計画と略します)が閣議決定されました。今後5年間、日本の男女平等政策の方向性を決める重要な計画です。今回のコラムでは、この計画のポイントや決定の背景などを解説します。
最大の特徴は、これがコロナ禍の最中に作られた計画ということです。「基本的な方針」は、コロナ禍の影響が男女で異なると言います。例えば労働について、女性は非正規雇用、取り分け宿泊や飲食業に携わる人が多いことに言及しています。また、在宅勤務が増えることで、虐待やDVが増加することにも触れています。
別のコラムでも触れた通り、コロナ禍による営業自粛の影響から職を失ったり、収入が減ったりした女性がたくさんいます。家庭内の暴力については、2020年春に国内外で懸念が広がる中、内閣府男女共同参画局では、相談窓口の増強といった対応を取りました。
こうした状況を踏まえ、5次計画では、アントニオ・グテーレス国連事務総長の言葉を引用しながら「女性と女児を新型コロナウイルス感染症の対応の中心にすえる」ことの必要性にも言及しています。コロナ禍からの復興においてジェンダー視点を主流化することが重要なのです。
5次計画のもう一つの特徴は、日本の男女格差の現状と課題を、国際的な文脈の中で位置づけたことです。特に、2019年に世界経済フォーラムが発表した「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」で日本が154カ国中121位であったことを重視しています。
この5次計画について、昨年12月に私が橋本聖子大臣(当時)にインタビューをした際も言及がありました。特に、政治分野の順位が低いことを問題視した橋本氏は、各党や県連に女性候補者を増やすことを要請した、と話していました。
経済分野における日本の男女格差は、働く場で女性リーダーが少ないことに表れています。実は日本政府は2003年に「社会のあらゆる分野において、2020 年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度となるよう期待する」という目標を掲げましたが、残念ながら達成できませんでした。
5次計画では、冒頭にこの問題を記述すると共に、この目標が社会全体で充分に共有されなかった、と背景にも触れています。公務員や大企業など女性管理職が相当増えた分野がある一方、業種や企業規模によっては女性社員自体が3割に満たないところもあり、ギャップが大きい状況です。
私は、5次計画の策定にあたり、「人材・意識」の問題を扱うワーキンググループ(以下、WG)構成員として、内閣府男女共同参画局主催の会議に参加しました。会議の場で「2020年までに30%が未達に終わった事実と、その理由などを明らかにすべき」と意見を述べたので、 5次計画の冒頭に書かれ、問題を共有できたことは、良かったと思っています。
また、人材・意識WGでは、人々の心に根づいている固定的な性別役割分担意識についても議論しました。近年、女性活躍推進法や育児介護休業法など、女性が出産育児を経て働き続ける法制度は整いつつあります。一方で地域によっては「育児は母親の仕事」と考える人が多く、保育所や働く場があっても、女性が働き続けるのが難しい現状があります。さらに「男性はしっかり稼いで一家の大黒柱になるべき」という意識は、依然として都市部でも根強く残っています。真に男女平等な社会を目指すために、WGの会合では、専門の研究者を招いて、男性の育児参加を促進するための施策や、国際比較研究に関するお話を伺いました。
5次計画は全部で11分野からなります。全国ダイバーシティネットワーク関係者の業務に特に関係が深いのは、第4分野・科学技術・学術における男女共同参画の推進、第10分野・教育・メディア等を通じた男女双方の意識改革、理解の促進だと思います。
第4分野では、まず、日本の研究者・技術者に占める女性割合が16.6%で、英国38.6%、米国33.7%と比べて低いこと、その理由として大学の理工系学部学生に女子が少ないことが記されています。ちなみに、国立大学や私立大学などの高等教育機関は、第2分野の雇用等における男女共同参画の推進と仕事と生活の調和で記載されている施策の対象となっています。そして、大学等については、理工系女子学生比率や、大学の研究者採用における女性比率の目標が示されているのです(図1)。
具体的な施策としては、テレワークを含む柔軟な働き方の導入・促進、育児・介護と研究を両立するための相談窓口の設置、アカデミック・ハラスメントの防止などが挙げられています。加えて、理工系に女子学生を増やすため、小中高校の授業における工夫や性別に基づく暗黙バイアスの是正などがあります。第10分野では、小学校から大学までの教育現場で形成されるジェンダーバイアスに触れています。児童・生徒・学生が毎日を過ごす空間を男女平等にするため、初等・中等教育における教頭以上や大学教員に女性を増やすことが目標値と共に示されています(図2)。
振り返ってみると、私が大学の学部生だった1993~97年、 語学や他学部講義を除く、専攻した法学部の授業では、女性教員から教わった経験がありません。男性の先生達からは、今も仕事や生活の中で思い出す大事なことをたくさん教えていただき感謝しています。ただ、それでも、民主主義や正義、公平の概念を習う法学部の授業で女性から教わる機会がなかったことは、疑問に感じています。
高等教育機関は、機会の平等や差別のない社会がいかなるものか、次世代を担う若い人たちに示す重要な役割を担っています。5次計画に記された関連事項に注意を払い、お仕事の中に取り入れていただきたいです。