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【中国・四国ブロック】機械技術者に女性が少ないのは、なぜ?(2024年9月5日掲載) 音声読み上げ


呉工業高等専門学校 男女共同参画推進室員、機械工学分野 准教授 國安 美子

私は朝、NHKの連続テレビ小説を見ます。このコラムを書いている2024年夏は「虎に翼」という日本史上初めて法曹界に飛び込んだ一人の女性のストーリーで、道なき道を切り開いてきた女性たちの姿が描かれています。立場や時代背景はだいぶ異なりますが、工学部の機械工学科で生きてきた私にとって、先人の少ない社会で生きていく苦悩を他人事とは思えず、ドラマにはまっています。

戦前、法曹界に女性はおらず、主人公が初めての女性判事となるのです。というのも、日本国憲法が施行される今から77年前まで、日本は明治憲法の下で確立された「家父長制」により、女性は家庭内で従属的な立場に置かれ、結婚した女性は「良妻賢母」として家庭を守ることが求められ、外で働くことは一般的でなく、社会的な偏見が強く存在していました。そもそも女性は教育の機会も限られており、高等教育を受ける女性は非常に少なく、女性が高度な専門職に就くことが難しい時代でした。ところが、主人公は進歩的な考えを持つ父親の影響で大学へ進学し、法律を学び、女性初の弁護士の一人となり、さらに女性初の判事で、女性初の家庭裁判所所長となり、活躍したのです。

一方私はというと、機械技術者の父親の影響で大学へ進学して機械の専門を学び、呉工業高等専門学校機械工学科初の女性教員となりました。2010年代初頭に「リケジョ」という言葉が生まれ、高専では女性教員の採用が優先されており、時代の後押しもあって現在の職場に採用していただきました。ちょうどその頃、長男を出産し、生後4カ月の長男を保育園へ預けて初出勤した日から2年後、長女を出産し、現在子どもたちは小学校高学年になりました。産後も安定して働けているのは、職場の環境と家族の支えがあってのことですが、自分のやりたいことを貫いてきた中で、時代の追い風もあり道が開かれていったように思います。

しかしドラマでは、主人公の活躍の裏に差別の問題や日本の司法制度の課題があり、順風満帆ではありませんでした。私はというと、日本の機械工学が抱える課題に、頭を悩ませています。

私が大学生の時代(2000年代)、女子学生の企業求人数は男子学生と比べてとても低いものでした。選考基準に性別が問われていなくても、受けに行くと実際は違ったという事例を私自身も経験しました。ところが今は、機械製造業に女子学生は引っ張りだこの状態です。当時と比べると圧倒的に女性が活躍する機会が増えているにも関わらず、変わっていないことが一つあります。それは、機械工学を志望する女子学生の数が当時と比べてほとんど変わっていないことです。女性役員増加などの社会の動きに対して、機械工学の女性が対応できないのは、そもそも専門とする女性の数がほとんど増えていないことに課題があると思います。

私が専門とする工学部機械工学における女子学生数は、大学や地域によって異なりますが非常に少なく、私の出身大学では1%以下でした。20年たった今も10%未満です。この現状を私は、日本には職業や業種によって性別役割分担の風潮が存在していることが原因ではないかと考えています。例えば、看護師は女性、医者は男性のイメージをもってしまうように、機械技術者は男性のイメージを思い浮かべると思います。この背景には、明治憲法の考え方のなごりか、女性は家庭に関連する分野に進むことを期待されているためだと考えます。こうした社会的な固定概念のみならず、幼少期からの遊び(男児がブロックなどのモノづくりを好んで遊ぶのに対して、女児はお人形遊びなどのごっこ遊びが中心にあるなど)が異なるなどの学習機会の違いもあるのだと思います。しかし、機械技術者として女性は、きめ細かく配慮した考えや男性とは異なる社会背景や経験から生み出されるアイディアなど、活躍する場は無限大にあるように思います。

そうした時代の流れに対して、教育現場を見てみると、バリアフリートイレの設置が進む中、ほとんどの大学(工学部)や高専の女子トイレは男子トイレに比べて非常に少なく、環境が整備されていません。さらに技術者として成功しているロールモデルの不足も機械工学へ女子学生が増加しない理由の一つと考えます。

そのため、1.トイレの充実とパウダールームを設置、2.女性専用スタディースペースを確保するなど休憩スペースの充実、3.安心できるセキュリティー対策(防犯カメラの設置,夜間の照明の強化)、4.女性教員を増員しロールモデルを示す、などの支援を進めることで、メカジョ(機械工学系の女子学生や研究者)の存在感を高めていく必要があると考えます。これにより、より多くの女性が機械技術者を目指し、日本の技術力がさらに向上していくことを期待しています。まずは、私自身がロールモデルとなれるように日々精進して参りたいと思います。


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