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【東北ブロック】「わからない」を許容できる空間へ(2024年11月15日掲載) 音声読み上げ


東北工業大学 建築学部 建築学科 准教授 錦織 真也

2022年から大学に籍を置き、教育研究活動と建築設計実務に従事しています。元々、生物学を学んでいましたが、女性建築家の作品集との出会いがきっかけで工学部建築学科に編入し、美術学部の大学院建築専攻へ進学しました。その後、設計事務所に就職し、遅くまで仕事をする日々を送りました。独立後、縁あって大学へ戻る機会があり、教育研究活動にも関わるようになりました。

生物、建築、美術、一級建築士、大学教員と、一貫性のない人生を送ってきたようにも見えますが、植物や数学が好きで、美術やデザインも好き、美味しいものや料理も好き、旅行や引っ越しや不動産が好きな自分を一言で説明することはできず、自分に向いている職業や学問が都合良くある訳でもないので、無理に一つに絞らず、少しずつ自分の居場所を作っていくような感覚でいろいろなことをやってきたように思います。建築設計の実務をしつつ教育研究活動に関われる今の環境は、自分にとってちょうど良い場所です。

キャリアを重ねていく中で仕事の量は増え続けており、家事や子育ての時間も取らなくてはならない状況で、現場というよりマネジメントに重心を置くようになりました。一方で、これまでの経験や知識を役立てながら皆が活動できる場や予算を用意し、生活でも仕事でも多くの人の協力を得て一人ではできないことを成し遂げられるようになりました。学生には、女性だから/子どもがいるからキャリアを諦めるのではなく、融通が利くより上のキャリアを目指す生き方、一直線にゴールを目指すのではなくいくつかのわらじを履くことで冗長性のある働き方ができることを知ってほしいなと思っています。そのためには、フルタイムで働ける人だけを評価するのではなく、多様な働き方や役職を選択できる環境が必要だと感じています。

大学で建築設計の指導をしている時に、「これで合っていますか?次は何をすればいいですか?」という、決められた道筋の先に完成された建築があるかのような、失敗しない方法を探るような質問を受けることがあります。実務の設計では、スケッチを描いたり模型をつくったり、たくさんの試行錯誤や取捨選択を繰り返す中で、少しずつ形が見えてくるようなプロセスを辿ります。場合によっては、これは何か「わからない」けどなんとなくいい気がする、といった直感的なひらめきから完成までの道筋をつくっていくこともあります。何か「わからない」けど何かいい、魅力がある、という感覚は、不確かですがそう間違っていない気がしています。

大学院で在籍していた東京藝術大学では、学生がつくる創作物は一見「わからない」ものが多く、説明を聞いてもさらに「わからない」ことがよくありました。禅問答のような教員と学生のやりとりを聞きながら自分なりに作品を解釈していくうちに、作品の見方や捉え方に正しい答えがあるわけではなく、むしろ多様な事柄を想起していくこと自体に価値があるように思われてきました。一言では説明できない、「わからない」不確実な感覚を抱えながら、学生も教員も考え続けていたように思います。そういう環境ではお互いの違いを認め合う雰囲気があり、周りと比べたり劣等感を抱いたりすることなく、何者かわからない自分と真っ直ぐ向き合いながら創作していました。

建築は、同じ条件で設計したとしても、何か一つの正しい回答があるわけではなく、設計者やクライアントの価値観や社会情勢、予算や敷地の大きさなど、様々な制約の中でバランスをとりながらつくられていきます。一方で、多くの人が関わり、使われる建築には、皆が共有できる概念が必要です。その概念が「わかりやすい」ことも大事なのですが、「わからない」ことを許容できるような概念、その概念の先に許容力の高い建築ができるといいなと思います。今はそんなことを考えつつ、将来どうなっているのか未だ「わからない」自分と向き合いながら日々過ごしています。


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