学校法人立命館 仲谷善雄総長インタビュー 音声読み上げなし
新型コロナウイルス感染症の影響で延期された「全国ダイバーシティネットワークシンポジウム(5/27)」にご登壇予定であった学校法人立命館総長・立命館大学長の仲谷善雄先生にお話を伺い、編集担当がまとめております。(2020年6月19日取材)
学園ビジョンR2030とダイバーシティ&インクルージョン
立命館は、建学の精神を「自由と清新」としています。「自由」とは何でしょうか。人の権利を尊重し、あるがままでいることを認め合うこと、それが新たな時代を切り拓く挑戦を重ねる上で大切にされるべき自由の意味だと思います。言うまでもなく、このことは、本学園が設立当初からダイバーシティを重視しているということなのです。この建学の精神の下、学園ビジョンR2020では「Creating a Future Beyond Borders自分を超える、未来をつくる」をビジョンワードとし、教育・研究・課外自主活動を通じて社会に貢献する人材の育成に取り組んできました。「Beyond Borders」は、立命館学園の構成員全員のビジョンとして、小学生の口からもこの言葉が聞こえてくるようになり、その浸透を実感しています。
そして2018年夏、新たに学園ビジョンR2030「挑戦をもっと自由に」を発表しました。2030年に向け、改めて建学の精神の現代的な意義を追究した表現と言えるでしょう。ダイバーシティ推進にあたっては「アンコンシャス・バイアス」が障壁になると認識しています。そうした中、挑戦を「もっと自由に」と強調していることに、決意を読み取っていただければと願っています。それは、自分自身が意識的に、また無意識のうちに作っているBorder、すなわち様々なアンコンシャス・バイアスに気付き、それらを乗り越えていく必要がある、ということなのです。
私の専門分野の1つは認知工学なのですが、無意識を意識に変えるには、ある状態に名前を付け、よりよい状態へ導くためのビジョンを示すことが有効です。例えばマイノリティの人たちの自由が阻害されている場合、自身では自己認識ができています。それに名前をつけてマジョリティと共有することが、認知を進めることになります。考え方や立場の違いを超えて、共によりよい状態に導く挑戦を「もっと自由に」と呼びかけることは、社会を変えるきっかけにもなるでしょう。
立命館大学におけるダイバーシティ&インクルージョン
グローバル化の拡大の中で、学生を改めて多様性ある存在として位置づけた上で、学園ビジョンの具体化のための協議を重ねてきています。立命館はこれまで、グローバル化に正面から向き合い、1988年の国際関係学部の設置、2000年の立命館アジア太平洋大学(APU)の開学により、新たな時代を見据える上では多様な視点と幅広い視野が重要となることが確認できました。APUでは留学生のことを国際学生と言っているのですが、その設置構想の段階から、学生の50%を国際学生に、外国籍の教員比率を50%に、そして国際学生の出身国・地域を50ヶ国以上に、というコンセプトを掲げました。これらの方針は各方面から驚かれましたが、日本から大学教育を変える、日本を変えるという強い意志で初年度から成し遂げました。そうした挑戦の積み重ねが立命館大学・APU双方のスーパーグローバル(SGU)大学の指定につながったと捉えています。
そして、2016年度には文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(特色型)」に採択されました。事業に応募して3回目での採択でしたが、着実な取り組みと多方面に挑戦する本学の風土が相まったためか、中間評価で最高評価である「S」を得ました。このことは、さらに充実した環境創造への強い励みになっています。採択にあたって設置された「リサーチライフサポート室」は、学部横断組織である研究部という研究を推進する部署が主管し、誰もが働きやすくなるような各種制度を整備している点で本学の特徴となっています。出産・育児・介護など様々な家庭事情の中でも働きながら研究を続ける。そのために、研究支援員制度(研究支援員の雇用経費を助成)、学内保育園の設置など必要な制度を整えてきました。
学園の組織運営にも目に見えて変化が現れました。2019年には副総長(理事)1人であった女性役員は、今は学部長4名を含めて5人となり、学園全体に活気をもたらしています。こうした変化により、自ずと役員会にもよい影響を与え、次の展望を構想する議論につながってきています。
そうした着実な取り組みを重ねる中で、2020年6月には法人全体を包括する総長直轄組織「ダイバーシティ&インクルージョン推進本部」を立ち上げました。これにより、ジェンダーだけではなく対象の幅を広げ、働き方改革・SDGsなど、複雑化する社会諸課題に取り組んでいきます。学園に関係する全ての人々が、なりたい自分を実現し、立命館に来て、立命館にいてよかった、と思える場を作るべく、総長メッセージなども発信していきたいと考えています。
全国ダイバーシティネットワーク事業に参画する意味
この事業に参画し、先行して女性研究者支援を形成していた大学のグッドプラクティスに触れることで、改めて本学の特徴を見つめ直し、新たなチャレンジへの原動力を得ることができています。
また近畿ブロック会議において、より詳しい情報や裏話に触れることができるため、本質的なネットワーキングの場になっていることも、このネットワークの特徴でしょう。
そうしたネットワークの幹事大学として、今後、本学が唯一の私立大学であることの意義を見出し、活かしていかねばならないと思っています。この事業は、国立大学しかできないものではなく、私立大学も同じフィールドにいるのだ、ということを広く伝えていくのは本学こそが担う役割であり、今がそのチャンスでしょう。近畿ブロックにおいては、2019年度に引き続き、「とりまとめ幹事大学」を担うのは2年目になります。昨年度の活動で新たに16機関に参画して頂きましたが、各機関のグッドプラクティスや課題を共有する機会を創出することに少しでも貢献できたのではないかと思っています。今後は、ダイバーシティに富んだ私立大学の実情を共有し、課題の抽出と解決の方向性を見出せる場を提供することが本学の役割だと捉えています。また、さらに多くの私立大学にも参画の機会を開くことが、本学が幹事大学であることによって促進されるのであれば幸いです。