大坪 久子、佐藤 恵、平田 典子(日本大学)
男女共同参画学協会連絡会による大規模アンケート調査より 科学・技術分野の「無意識のバイアス」(オンラインビデオと資料が掲載されました) 音声読み上げなし
掲載日:2021/04/19
※男女共同参画学協会連絡会のサイトに「無意識のバイアス」についてのオンラインビデオと資料が掲載されました。詳しくはこちらをご覧ください。
はじめに
日本における男女共同参画の動きは、1985年の男女雇用機会均等法の施行から30年を超えて僅かずつであるが進んできました。文部科学省は2006年から継続的に女性研究者支援事業を行っていますが、日本の女性研究者の割合は依然として国際的に最も低い水準にあり、諸外国の女性研究者比率の増加には及びません。世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数は2018年には調査対象となった149カ国中110位で、G7では最下位で、アジア諸国のなかでも下位の状態が続いています。近年、「無意識のバイアス」は女性の科学・技術系研究職への参入のひとつの障壁になっていると考えられるようになり、男女共同参画学協会連絡会では「無意識のバイアス – Unconscious Bias – を知っていますか?」を発行し、広く啓発に努めています。
無意識のバイアス
無意識のバイアスは誰もが潜在的に持っているバイアス(偏見)のことで、無意識のうちに獲得した固定観念や既成概念によって作られます。このバイアスは男女の性別や人種、宗教、民族など様々な場面で認められ、判断を要する様々な場面で直感や感情、無意識による早い判断を働かせて、認知の便利なショートカットとして機能します。
大学や研究機関の研究者は人材の採用・育成・昇進といった人事にかかわる評価者の視点が求められます。一方の性に偏った評価は、人的資源の半分を利用できないことにつながります。また、自分自身に対する偏見があると、能力を閉じ込めて十分に発揮することができません。科学・技術の発展、継承のために広く人材を求め、次世代を育成するためには「無意識のバイアス」を排除する必要があります。無意識のバイアスがどのような場面で現れ、どのように働いているかを知ることで、評価や判断における負の影響を最小限に抑えることができます。
男女共同参画学協会連絡会による大規模アンケート
男女共同参画学協会連絡会では2003年からほぼ5年おきに科学技術系研究者・技術者の実態を調査する大規模アンケートを計4回実施しており、回答者は連絡会に加盟している科学・技術系学協会会員を中心にそれぞれ1万4千から1万9千人におよびます。
第4回大規模アンケート解析結果
http://www.djrenrakukai.org/enquete.html#enq2016
本連絡会では、第1回大規模アンケートの結果を基に、第3期科学技術基本計画に対する要望として、1)科学技術分野における男女共同参画モデル事業制度の創設(重点資金配分・振興調整費・女性研究者育成プログラム)、2)女性研究者・技術者の採用と昇格に対する数値目標の設定と特別交付金、3)男女の処遇差を改善するための具体的施策(男女共同参画室設置・コーディネーター配置)、4)育児支援の具体的施策の推進(両立支援基金・代替要員・復帰支援・託児施設・男性の育児休暇)、5)女子学生の理工系学部進学へのチャレンジキャンペーン推進、の5つを掲げました。個人の支援を求めた従前の要望に比べ、大学・研究機関の基盤整備と組織・制度改革に踏み込んだ大きな構想であることが本要望の特徴であります。さらに、第2回大規模アンケートにもとづき、第4期科学技術基本計画に向けて、任期付き職の諸問題、リーダー育成、上位職登用、同居支援策等の要望書を提出してきました。その結果、基本計画本文における「女性」の文言の記述が著しく増加するなど、大きな成果が得られています。
大規模アンケートにみられる自然科学系研究者・技術者のバイアス
指導的地位の女性比率が低い理由として「女性は中途離職や休職が多い」の項目を選択したのは男女ともに半数近くの回答者にのぼり、男性よりも女性のほうが回答比率が高いという結果が得られました。女性は離職率が高いという印象は、男女がともに持つ「無意識のバイアス」の一つと考えられます。
大学・研究機関での研究者の雇用形態は、女性の新規採用では任期付き職が多く、研究室や開発チームを主宰するリーダーになることを望まない女性は男性よりも多いのが現状です。女性自身が抱えるバイアスが顕在化したもので、女性の研究リーダー育成には研究と家庭との両立支援のほか、女性側の役割意識を変えてゆく支援、背中を押す支援が必要です。一方、「希望する職業」で、「大学・研究機関で研究室を主宰」「企業等で研究・開発を主宰」を選択した回答者を経年的に比較すると、リーダーになることを望む女性の割合が明らかに増加していることがわかります。これは2006年から行われた女性研究者支援事業の成果であり、また大学の中には自学の予算で女性研究者を積極的に採用するポジティブ・アクションが進められてきており、その効果が出始めていると考えられます。
この大規模アンケートは回答者の性別や年齢、職位、収入など多くの項目が収集されており、連絡会が詳細なデータ解析を重ねることでバイアスの存在を明らかにし、効果的なバイアスの克服に活用できるようになることを望みます。