山形大学
ダイバーシティを加速するための研究者支援の取組 ~企業主導型保育所運営と研究支援員制度等の充実~ 音声読み上げ
1 背景
山形大学は山形県内に4箇所のキャンパスを持ち、人文社会科学部・地域教育文化学部・理学部・医学部・工学部・農学部の6学部と6つの大学院研究科を備え、約9,000人の学生が勉学に励む、総合大学です。工学部の学生割合は全学の4割、教員は2割を占めているが、工学部に所属する女性教員の割合が低く、全学の女性教員比率に影響を与えていることが課題でした。本学は、第3期中期目標・中期計画に基づき、ポジティブ・アクションを活用して工学部はじめ全学の女性教員比率の向上に継続して取組み、令和3年8月現在で女性教員比率は16.1%であり、本学初の女性学部長が平成30年度に就任しています。
研究者のワーク・ライフ・バランスの面では、女性教員が単身で赴任し、育児や介護を担っている例が見られ、地方大学の特徴と考えられます。平成30年度に実施したアンケート調査では、配偶者のいる女性教員のうち家族と別居している割合が1割で、そのうち育児や介護を必要とする家族がいる割合が2割程度であり、男性の研究者の支援も必要であることが分かりました。このような現状を踏まえ、多様な研究者が活躍できる大学を目指し、ワーク・ライフ・バランスを考えた環境整備に取組むことが課題です。
2 山形大学男女共同参画基本計画に基づく環境整備と支援制度の充実
本学は、平成22年に策定された山形大学男女共同参画基本計画により、男女共同参画推進委員会を中心に男女共同参画を推進し、ワーク・ライフ・バランスの実現を図ってきました。この間、文部科学省「女性研究者支援モデル育成事業」(平成21~23年度)や「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ事業(連携型)」(平成27~令和2年度)の採択を経て、研究・就業環境の整備を行ってきました。そして、令和2年度に、山形大学男女共同参画基本計画(第2次)を施行し、本学の学生及び教職員が性別、性的指向・性自認等にかかわらず、あらゆる活動において個性と能力を発揮できる大学を目指すとともに、他大学や地域社会とネットワークを築き、男女共同参画及びダイバーシティを加速することを目標に掲げました。
令和2年度に、「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ事業(連携型)」事業の終了と、第2次山形大学男女共同参画基本計画の施行に伴い、本学の支援制度の見直しを行い、一層の充実を図りました。令和3年度からの新たな支援制度においては、「研究支援員制度」は予算を増額して継続し、支援期間を1年間とし、各キャンパスへ運営を一部移管する等の改善を行いました。また、「夜間保育・休日保育・病児・病後児保育、学童保育利用料補助制度」は「各種保育利用料補助制度」という名称に変更したうえで、支援対象を女性研究者だけから男性研究者と職員にも拡充しました。このほか、「学会参加時の育児支援制度」(1人について年間10,000円1回限り)を「学会参加時の育児・介護支援制度」に改正し、充実を図っています。令和3年度以降の支援制度は下の図のとおりです。
3 主な支援内容
各種支援を実施しているが、保育所運営と研究支援員制度に特に力を入れています。以下に、主な内容を報告します。
(1) 地元銀行と連携した企業主導型保育所
山形大学では、平成19年1月に医学部保育所すくすく(定員40名)と、平成26年4月に小白川キャンパス保育所のびのび(定員30名)を開所しています。平成29年1月に医学部病児保育室(定員3名、6か月~小学6年生)を開設し、医学部以外の教職員が利用できるようになりました。
さらに、平成29年11月、育児支援を充実させることを目的に、山形銀行と設置・運営に関する連携協定を締結し、平成30年9月に、小白川キャンパス保育所つぼみ(定員10名、0~1歳児)を、地元の山形銀行と連携した企業主導型保育所として開所しました。整備費と運営費は国の助成を受け、運営費は山形銀行と山形大学が協力して負担しています。
企業主導型保育所つぼみでは、産後休暇明けから1歳までの乳幼児を対象(定員10人)とし、本学教職員と山形銀行の職員が利用しています。定員に余裕がある場合は、地域枠として学生の子どもや山形市在住の子どもを受け入れています。企業主導型保育所の設置基準に従い、自園調理を行って乳幼児の食育に資するとともに、看護師を配置して保育中に体調不良になった場合も対応し、保育内容も充実させることができました。この結果、学内の保育環境は格段に整備され、地元企業と連携した先導的な取組として地域でも評価されています。
なお、鶴岡キャンパスの農学部においては、荘内銀行と連携し、銀行内の保育所利用に関する連携協定を平成30年4月に締結しています。
(2) 研究支援員制度の充実
研究支援員制度は、研究支援員を配置し、出産・育児・介護等により十分な研究活動を行えない研究者を支援する制度です。本学では平成22年度より女性研究者を対象に研究支援員を配置していましたが、平成27年度「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ事業(連携型)」の採択を契機に男性研究者にも自主財源で研究支援員を配置し、事業終了後も女性・男性研究者を支援しています。平成27年度以降の女性研究者の利用者は28名、男性利用者18名、合計46名であり、配置した研究支援者の総数は67名、研究支援の総時間数は27,627時間に達しています。令和3年度は、研究継続と育児・介護の両立のための効果的な支援になるよう、制度を継続すると共に、予算の増額や支援期間を1年間にし、各キャンパスへ運営を一部移管する等の改善を行いました。これらの継続的な支援によって、研究支援員を配置した女性研究者の業績(論文数、外部資金獲得件数等)が増加しています。
(3) 各種保育利用料補助の充実
「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ事業(連携型)」の事業として、「夜間保育・休日保育・病児・病後児保育、学童保育利用料補助制度」に取組み、女性研究者を対象に、諸保育の利用に対して利用料金の補助を行いました。補助金額は、子ども1人について年間20,000円です。年度ごとの利用者数は、平成28年度7名、平成29年度9名、平成30年度8名、令和元年度8名、令和2年度7名で、延べ39名でした。利用者の多くが継続利用者で、学童保育のニーズが多くなってきています。令和3年度からの制度見直しにより、大幅に予算を増額したうえで支援対象を常勤の教職員対象(男女)に拡大しました。令和3年度の利用登録件数は34件であり、有効に活用されています。
【以上の取組の成功に向けた留意点】 ★は該当する項目
★A 戦略性:機関の経営戦略として位置づけている
★B トップのコミットメント:機関のトップが牽引している
★C 取組体制の整備:実施責任者を置き、明確な実施組織等を整備している
★D 成果目標:具体的で明確な目標等を設定している
E 双方向のコミュニケーション:幹部層と構成員のコミュニケーションを促進している
★F 説明責任と透明性:外部評価委員会等を設置し、外部の意見を取り入れる体制としている
※外部評価委員会は令和2年度末まで