ドイツ・Girls’Dayを調査して(2019年6月19日掲載) 音声読み上げなし
大阪大学接合科学研究所 准教授 梅田 純子
ドイツは、国家戦略としてSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)分野での次世代女子学生の育成に先駆的に取り組んでおり、グッドプラクティス事例としてGirls’Dayを紹介します。
ドイツのGirls’Dayは、次世代の研究職・技術職に進む女性の増強を目的に、10歳以上の女子生徒に対してSTEM分野への関心や理解を促すべく、産官学が連携してドイツ全土で職業体験を行うイベントで、毎年4月の第4木曜日に開催されています(イースター休暇と重なる場合は3月に開催。次回は2020年3月26日。)。ここでは、女子生徒は理系に向かないというステレオタイプを無くし、STEM分野に係る科学技術を魅力あるものと感じることができるプログラムの提供を目指しています。
Girls’Dayの始まりは、ドイツ北西部の都市にあるBielefeld University of Applied Sciencesにおいて、1997年から実施された女子生徒へのSTEM教育普及活動です。2001年にドイツ教育研究省(BMBF)の助成を受け、10歳以上の女子生徒を対象にSTEM職業への興味を引き出すことを目的に、ドイツテレコムやドイツ銀行など39企業や大学がプログラムを提供し、1,800人の10歳以上の女子生徒が参加して第1回Girls’Dayが開催されました。翌年以降は、ドイツ政府において男女機会均等を担当している家族・高齢者・女性・青年省(BMFSFJ)や連邦雇用庁(BA)の支援も受けて継続的に開催され、年々規模が拡大しています。2018年の第18回開催時は、348の自治体が協力して10,500の企業・大学・研究機関がプログラムを実施し、97,300人の女子生徒が参加しました。2018年までに累計137,000以上の町工場から大企業や大学・研究機関がSTEM職業に触れる機会を提供し、190万人以上の女子生徒が参加しています。
企業などがGirls’Dayに参加する目的は、社会貢献や将来の研究者やエンジニアの育成です。そこでは、講演会や職業体験、実験体験が行われています。例えば、ロボット組み立て工場や自動車工場での体験実習やプログラミング体験、大学の研究室では最先端研究の実験体験ができます。
まず参加企業などは、運営組織(NPO組識Kompetenzzentrum Technik-Diversity-Chancengleichheit e.V.)に提供プログラムを登録して、運営組織がその情報をプロジェクトマップで公開します。
女子生徒がいる家庭では、住んでいる地域でどのようなプログラムが提供されているかを探し、クリスマス頃に参加プログラムを家族で決めて申し込みをします。このウェブサイトへのアクセス数は、月平均1,700万回以上あることから、ドイツ国民に周知されていると言えます。
女子生徒は1日職業体験をすることで、生活の身近なところで様々なSTEM職業があることを理解し、参加者の96%が満足し、70%が体験した職業に興味を示すようになったと回答しています。また、見聞だけでなく実際にSTEM職業を体験し、親や教師以外のロールモデルと接することにより、進路や職業選択の枠が広がることに加えて、理系進学を目指す契機となっています。さらに、女子生徒の親や教員にとってもSTEM分野への理解促進に繋がっており、学校においても女子生徒が学校を休んでGirls’Dayに参加することに理解を示しています。また、プログラム提供企業の33%が、過去にGirls’Dayに参加した女子生徒をインターンシップ時に受け入れており、その2/3が雇用に至っています。
ちなみに、2011年からBoys‘DayをGirls’Dayと同日に開催しています。これは、男子生徒の親から不平等ではないかとの声が多くなり、男女平等の観点から、男性の少ない職業への関心を引き出すことを目的に、保健師や看護師、先生、事務職員などの職業実習・体験の機会を提供します。現在は200を超える企業や大学・研究機関が参画し、2018年までに25万人以上の男子生徒が参加しました。
継続的なGirls’Dayの取組は、女子生徒のSTEM分野への関心やSTEM職業に就く割合が高まっているだけでなく、女性のSTEM分野進出に対するドイツ国民全体の意識を確実に変えることに繋がっています。また、世界20ヶ国以上でGirls’Dayもしくは同様のイベントが行われています。日本においてもドイツのGirls’Dayを参考にして、全国的な産学官連携のもと、次世代の科学技術を担う女子小中高生がSTEM分野に触れるきっかけを地域でつくることにより、実践的な環境での体験はSTEM分野への進学やキャリア形成への興味や関心を引き出すことが可能となると考えます。同時に、進路選択の際に大きな影響を与える保護者(特に母親)や教員の理解を促し、日本社会全体にSTEM分野における女性活躍のすそ野拡大が期待できます。