日本のジェンダー・ギャップ指数121位 高等教育機関に期待すること(2020年7月6日掲載) 音声読み上げ
ジャーナリスト、昭和女子大学研究員、東京大学情報学環客員研究員
治部 れんげ
昨年12月に「グローバル・ジェンダーギャップ指数」が公表されました。ダボス会議で知られる民間の経済団体・世界経済フォーラムが2006年から行っている調査で、健康・教育・政治・経済の4分野について、各国内の男女格差を測って数値化し、差が小さい国ほど上位にくるランキングを作成してきました。2019年の調査で、153カ国中、日本は121位でした。
先進国最下位、しかも調査開始以来の最低順位となってしまったことは、報道でしばしば取り上げられました。この13年間、結果は毎年、公表されてきましたが、今回初めて知ってショックを受けた人も少なくなかったようです。私もこの件でメディアの取材に対応したり、記事を書いたりしました。
日本の総合順位が低い最大の理由は、政治分野で女性の進出が遅れているためです。特に国会議員に占める女性比率が10%程度であることや、調査時に女性大臣がひとりしかいなかったため、政治分野だけを見ると日本は144位と非常に低くなっています。
経済分野については、政府が推進する女性活躍政策の影響で女性管理職などが増えたこともあり、スコア自体は2006年の0.545から2019年0.598へと改善しましたが、順位は83位から115位まで落ちてしまいました。ここには相対評価の特徴が表れています。日本以上に他の国々が女性活躍推進に力を入れ、役員や管理職への女性登用に取り組んだ結果、日本の努力がランキングには表れなかった、というわけです。
ここまでは、報道でご存知の方も多いのではないでしょうか。
保健分野では、調査開始時点から高順位を保っています。妊産婦死亡が珍しく、女性の寿命が長いことが要因です。今年は40位でしたが、同スコア(0.980)の1位が39カ国もあり、日本のスコアは0.979でしたから、この順位については、あまり気にしなくていいと思います。
教育分野は91位でした。具体的な評価指標を見ると、識字率は男女共に99%と高く、ジェンダー格差がないため1位、初等教育へのenrollmentも同様に1位となっています。中等教育在籍者に占める女性割合は48.2%で、男女差はかなり小さいものの、この指標については128位とずいぶん低い順位となっています。これは、中高等教育在籍者は女性の方が多い国があるため、平等に近いというだけでは、高い順位にならないことが影響しています。
このように、各分野を測る指標、スコア、順位を見ていくと改善すべき点が見えてくるでしょう。先進国として恥ずかしくない水準までジェンダー格差を縮めたい、と思うのであれば、政治・経済分野の女性リーダーを増やすことが最優先課題です。本来なら国会や産業界が取り組むべきことですが、高等教育機関にもできることはある、と思います。
例えば、性別に基づく専攻の棲み分けについて。女性が少ない分野の研究者と話をすると、多くが「そもそも受験生の段階で女子が少ない」と言います。確かにそれは事実です。でも、それは中高生の自然な選択によるものでしょうか?
私は国立の社会科学系学部に1993年に入学しました。同学年の女子比率は25%程度でした。この当時、私の実家があった千葉県のやや奥まった地域には「女の子は浪人しない方がいい」「女の子は自宅通学が良い」と考えている友人も少なからずいました。そういう中、私が幸運だったのは進学先についての制限を親から加えられなかったからです。
その結果、1997年に就職した際、当時は数少なかった総合職、つまり男性並みに稼げる職種に就く機会を得ることができました。同じ大学にもっと女子が増えたら女性も経済的に自立できるだろう、と思います。そのためには中高生本人の意思決定に任せるだけでなく、保護者の意識を変える必要があります。
男性が多い研究科、学部で教えている方々は、意識して、女性が少ない理由を考えてみてください。個別に話をすると、女性研究者だけでなく、男性研究者から「うちの学部は女性が少ない。もっと増やしたい」という声を聞くことは珍しくありません。しかし、皆さんの気持ちは保護者や高校生に届いていないのです。
保護者や子ども達のジェンダーに対する「無意識の思い込み」を解くには、大学内にいる方の発信が有効です。ぜひ、機会を作り、その分野に女性が少ないのであれば女性も歓迎していることを、男性が少ないのであれば、男性も歓迎していることを、メディアの取材を受けた時や、ご所属機関にあるご自身の業績、専門分野の紹介に一言添えてみて下さい。それは、人々の思い込みを変える小さなきっかけになるでしょう。
ちょうど国際女性デーの3月8日にニュースで名古屋大学の女性研究者登用に関する方針が報道されました。20%を目標に女性研究者を増やし、目標に達しない学科の予算を減らすという、かなり大胆な施策です。大学関係者からすれば、かなりの荒療治に見えるかもしれませんが、子どもを持つ親やジェンダー問題に関心が高い専門家の間では、好評価を得ています。このくらい思い切った施策は、社会に対するアピールとして効くと思います。