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【九州・沖縄ブロック】
女性骨盤の画像診断(2020年8月3日掲載) 音声読み上げ


琉球大学病院放射線科 講師 伊良波 裕子


放射線科医は全身のあらゆる部位の画像を見て病気を診断しますが、私はその中でも特に女性骨盤臓器、いわゆる子宮や卵巣に関する画像診断が大好きです。きっかけは放射線科医になって間もない頃、子宮筋腫のMRIに興味を持ったことに始まります。子宮筋腫の原因はよくわかっていませんが、子宮の壁に平滑筋組織が異常増殖してできる女性特有の病気です。子宮筋腫はMRIで非常に特徴的な画像所見を呈します。まだ研修医の私は勉強不足で、子宮筋腫の画像や病態を不思議に思い、時間があると子宮筋腫のMRIばかり見ていた記憶があります。専門医取得のためには他の領域も学ぶ必要がありましたが、症例検討会などで女性骨盤の症例が出ると、いつも興味津々でした。

途中2児の出産育児のため仕事より家庭中心の生活となりましたが、育児にも慣れ仕事へ復帰して働いていたある時、上司から国際学会への参加を打診されます。世界中の放射線科医が集結する大規模な学会で、参加するためには採択率3割の壁をクリアしなければならないのですが、後輩の参加者もいたためこれが刺激となりました。慣れない英語でのプレゼンテーション作成でしたが、優秀な指導者のもと演題が採択され、シカゴで開催される国際学会に参加することができました。自信がついた私は翌年、それまで蓄積してきた女性骨盤の教育的症例を集めて演題を出すことにしました。演題名は日本語で、“婦人科救急疾患のCT・MRI診断”です。婦人科の救急疾患といえば、一般の方でもご存知の疾患として子宮外妊娠や卵巣腫瘍の茎捻転などがあります。子宮や卵巣の異常が原因となり腹痛を起こす疾患ですが、症状や血液検査のみでは診断が難しいことが多く、CTやMRIなどの画像が威力を発揮します。私はそれまで多くの症例を経験させていただいていましたから、それらの症例をわかりやすくまとめたプレゼンテーションを作成しました。なかでも希少な疾患は自分一人では集めることが難しいのですが、それまで良好な関係を保ってきた多くの放射線科医の協力もあり、希少な症例を網羅したかなり理想的な内容にまとめることができました。そして実際にこの発表が学会で受賞することになります。金銀銅でいえば銅賞ですが、国際的に自分の仕事を認められたことをとても嬉しく思いました。その後その内容を総説論文にまとめ、学術誌に掲載していただくことができました。

それから講演などの仕事が少しずつ入るようになります。人前で話すのは苦手な方ですが、これも必要な仕事と思って講演を引き受けました。県内、国内と数か所の講演に呼んでいただきました。最近では国際学会の教育講演も引き受けていたのですが、残念なことにこちらは新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大により、WEB開催となってしまいました。そのほか講演以外にも、国内の医学雑誌の執筆を担当する機会も増えました。講演や雑誌の執筆ではたくさんの調べ物をして準備をしますが、結局一番勉強になるのは自分です。必ず自分に返ってくるものがあるので、最近では苦手だった人前での講演も悪くはないと思えるようになりました。自分が好きで取り組んできた女性骨盤の画像診断ですが、今ではこのような教育的な仕事が私に与えられた使命のようにも感じています。

自分の仕事を“与えられた使命”と思えることは幸せなことです。若い頃は仕事の意義や必要性が理解できず悩む時期もありましたが、今はとても楽しく仕事をしています。嫌な部分を含めてやるべき仕事を一生懸命取り組み続けてきたからこそ得られるご褒美のようなものだと思っています。そして自分の可能性を低く見積もることなく、出産育児を言い訳にすることなく、いろいろなことにチャレンジする精神が後々自分の未来を切り拓くことになるのだと思います。

女性の健康と働く女性を応援して、今後も突き進んで行きたいと考えています。


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