【30% Club Japan TOPIX社長会メンバーからのメッセージ】味の素株式会社 野坂 千秋氏(2020年7月30日掲載) 音声読み上げ
2010年に英国で発足し、日本では2019年に設立された30% Club Japan。現在は50を超える企業、教育機関等のトップがメンバーになっており、中でもTOPIX企業のトップからなるTOPIX社長会は、30% Club Japanの中でも精力的に活動を行っています。今回より、30% Club JapanのTOPIX社長会メンバー企業のお話を連載シリーズでご紹介していきます。
連載シリーズ①
味の素株式会社 野坂 千秋氏
「女性の成長が、企業に与えるインパクト」
30% Club JapanのTOPIX社長会のメンバー企業である味の素株式会社より、取締役 常務執行役員の野坂千秋さんをお迎えして行った対談の模様を、ダイジェストでお伝えします。
(聞き手は、全国ダイバーシティネットワーク事業コーディネータ/ 株式会社カレイディスト代表取締役 塚原月子。)
野坂さんご自身のキャリアの歩み
学生時代から、人が生きる糧である食品に関わりたいと思っていました。
私が就職した当時は、男女雇用機会均等法施行前。勤め先の研究所の男性上司・先輩は良い人たちばかりで、嫌なことは何もなかったです。
一方で、私は何をするためにここにいるのだろうと7年間悩み続けました。食品に関わりたいという想いはありましたが、明確な仕事観がなかったのです。
そんな折に、上司から1年間の長期出張を命ぜられました。支社における技術担当として、外食産業の顧客に対して最適な調味料や加工食品を提案するための部署で、上司からは「営業マンと一緒に回りながら技術のテーマを持って帰ってきてほしい」と言われました。
ここでの仕事の中で経験したことで、私自身の仕事観が見えてきたのです。顧客との接点から、技術的な課題を見つけて、それを技術開発に結び付けるというメーカーの使命に直結する全体の流れが見えたのです。
組織のミッションと自分がやりたいことの接点を見つけられると良いと思うのです。そうすると、キャリアを進めていく上で、組織と個人の関係がWin-Winになります。周りに賛同者も増え、一層成果を出すことができるようになり、経済価値を生み出せるようになるのだと思います。
味の素における女性活躍の取組み
味の素では、ダイバーシティよりも先に10年前からまず働き方改革を進めました。当初は、ワークライフバランスの確保、育児等のため時間制約がある人向けの制度を整えることが中心でした。
2015年に西井が社長に就任してから、制約の有無にかかわらず、「誰もが」ワークライフバランスを保って柔軟に働けることを重視するようになりました。それでも敢えてダイバーシティ推進を前面に出さなかったのは、全ての社員の働き方の土台を揃えることが重要だと考えたからです。
2017年にダイバーシティ推進タスクフォースを設置し、私もその責任者に就任しました。女性人財ができるだけキャリアを中断しなくて済むような取組みや、事業所内保育所の設置、組織風土改革にも取り組みました。多様な「一人ひとり」を主語にしたダイバーシティの取組みであることを心掛け、アンコンシャスバイアス研修の導入や、LGBT研修、営業職への研修や障がい者支援の取組みなど、活躍できる環境を整えてきました。
30% Club Japan参画への道のり
30% Club Japanへの参画に際して初めて「2030年までに取締役の30%およびライン責任者の30%を女性にすることを目指す」という数値目標を設定しました。ラインの責任者や取締役についても、社員全体における男女比の7:3に近づけるという考え方です。
一方、味の素の女性活躍においては、「潤沢な育成の機会の提供」「登用への優遇は決してしない」「育成・登用活動をライン評価に反映」の3点を重視しています。この3点は、数値目標を設定する上でとても重要なベースになっていると思います。
西井は、2015年社長就任時後すぐに、働き方改革とダイバーシティの推進の取組みを両輪で進めていきました。全社員の勤務時間を8時15分から16時30分までとすることで、「お先に失礼します」と頭を下げて帰るストレスから、多くの女性が開放されました。また、例えば配偶者への帯同など、今までは休職制度によってサポートしてきたのですが、これからは場所の制約なく仕事が継続できれば、そもそも休職する必要もなくなるんですよね。このように、時間や場所の制約を取り払うことで、女性のパフォーマンスを上げ、キャリアを中断しなくても済むようになれば、女性のキャリア成長の傾斜角度が上がるのだと思います。
コロナ禍でも在宅勤務へのシフトが円滑にできたのも、長く続けてきた取組みの成果だと思います。
次世代女性へのメッセージ
コロナ禍も予想しがたい事態ではありましたが、そうでなくても今は環境変化が激しいですよね。変化の中でどうしていくのか、自分でちゃんと考えることが大切だと思います。そして教育は、自分で考えられる人を育てるためにこそあると思います。今は情報があふれていますが、その中で自分を見失わないでほしい。同じ課題に接しても、人によって見方は違うかもしれない。他人の意見を尊重しつつも、迎合せず、自分自身がその課題にどう向き合い、どう解決にあたるかが重要です。
特にリケジョの皆さん、これからのビジネスはますますデータドリブンになっていくと思います。ロジカルな思考や自分も生活者であるということは大きな強みですし、ビジネスにおけるポテンシャルも高いと思います。
全国ダイバーシティネットワークに対しての期待
今、私たちは、日本型雇用についても見直す時期に来ていると感じていますが、ではどのように変えていくのか、企業内だけでなく様々な視点から意見を頂いて取り組んでいけると良いと思います。
逆に、企業側から、大学に対して接点を持つときも、例えば食品研究に関する講義をしに行くということだけでなく、企業の一員としてどんなキャリア観・仕事観を持って働いているのかといったことに触れる機会があっても良いと思います。
大学の教育・研究現場では純粋な自然科学的な着想が大切だと思いますが、一方、企業は、社会の課題に対して、企業としての取組みを介することで経済価値を生み、最終的には社会価値を生んでいるのだと自負しています。大学と企業は、社会価値を生むことを共通目標に、様々な領域で協働していけると良いと思います。そのような連携があってこそ、学生時代から企業トップ層まで続く女性のパイプラインを構築していけるのではないでしょうか。
野坂千秋さんご経歴:
1983年 入社
2005年 上海味の素食品研究開発センター社 総経理
2009年 食品技術開発センター長
2011年 執行役員 食品研究所 商品開発センター長
2015年 常務執行役員
食品研究所長
2019年 取締役常務執行役員(現任)ダイバーシティ・人財担当