茨城大学大学院理工学研究科(工学野)助教 山内 紀子
私は、2010年3月に東北大学大学院工学研究科の博士課程を修了後、同年10月に福島高専の助教となって研究室を立ち上げ、研究者・教育者としての人生をスタートさせました。その後、2018年に茨城大学の助教となり、改めて研究室を立ち上げ、今日に至ります。福島高専の教員時代から数えると、研究室をもってちょうど10年が経ちました。これまで合計32人の大学生、大学院生、高専の専攻科生と卒研生の研究指導を行ってきました。
私は、28歳で福島高専の助教になったとき、研究と教育の両方に携わる仕事がしたいという夢を叶えることができました。ただし、夢が叶うことはゴールではなくスタートであって、日々の授業や、研究室をゼロから立ち上げて運営していくにあたり、戸惑い悩むことも多くありました。それでも少しずつ前に進みながら、研究者・教育者としての在り方を模索していきました。
2018年2月に茨城大学工学部に移りまして、改めて研究室を立ち上げました。私の研究室のテーマの一つが、数百ナノメートルサイズの微粒子の表面にウイルスを認識するセンサーとなる糖鎖を固定化し、ウイルス濃度が極めて低い感染初期に正確かつ迅速にウイルスの有無を判定できるような新しいツールを開発することです。他にも、生分解性ポリマー、温度応答性ポリマー、蛍光色素、磁性ナノ粒子、X線造影能をもつ金ナノ粒子など、幅広い特性をもつ材料を組み合わせた微粒子を合成し、医療分野への応用を目指しています。さらに、微粒子はサイズが小さいとともに、比表面積(単位体積当たりの表面積)が極めて大きいという特徴がありますので、触媒や有害物質の吸着材など、工業分野でも幅広く利用されています。このような工業分野にも貢献できる微粒子の合成技術を提案していきます。
ここで、機能性微粒子の合成技術の開発においては、なるべくシンプルで環境にやさしい手法で、高機能な材料開発を行うことが私の研究のスタンスです。材料をビーカーに入れて混ぜるだけで目的とする高機能な微粒子ができたら、それが究極の合成法だと思っていまして、ウイルス検出用微粒子もこの研究スタンスに則った方法で開発中です。さらに、ある特性をもった微粒子を作る過程で得た知見を、他の微粒子の合成法としても活用できないか、というような研究の広がりも意識していて、例えば、ウイルス検出用微粒子を作製する過程で得た知見を、がんなどの病気を早期発見する技術に活用することを考えています。
研究者としてどう在りたいかという問いを常に自分に課している日々ですが、多方面の専門分野をもつ人たちとの関わりを広げ、繋げて巻き込みながら、新しい研究領域を開拓していくことが大きな一つの目標です。基本的に“欲張り”なので、この範囲でいいや・・ということを定めず、来るもの拒まず、面白いことには何でも首をつっこんでみる、という生き方をしたいですね。研究者としては、もっと一つのことに集中して、トコトンつきつめてやるべきなのでは・・と悩んだ時期もありましたが、今は自分が思う方向でトコトンやってみることにしています。このようにやっていく中で、私ならではの強みを確立し、世の中に貢献していけたらと思っています。
「人生というスパンで考える」―― これは、私が教員として、学生たちに伝えてきた言葉です。人生の岐路で迷ったときには、つい近視眼的になりがちですが、一度立ち止まり、じっくりと自分の生き方を考える必要があります。私自身、人生というスパンで考えたとき、今はステップアップと踏ん張りどころの両方の時期なのではと思っておりますが、支えてくださっている先生方や一緒に頑張ってくれている学生の皆さん、そして家族に感謝しながら、研究者・教育者として、また、一人の人間として常に挑戦し続けていきたいです。
茨城大学工学部 山内紀子研究室 http://norikoyamauchi.msae.ibaraki.ac.jp/