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知っていますか? コロナ禍の中、国連機関が「広告のジェンダー平等」を提案したこと(2021年5月7日掲載) 音声読み上げ


ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、昭和女子大学研究員、東京大学情報学環客員研究員
治部 れんげ

2020年4月、新型コロナの感染対策で日本全国に緊急事態宣言が出ていた時期に、ひとつの文書が公表されました。UN Women(国連女性機関)とユニセフによる「COVID-19と企業広告・マーケティング」と題したレポートの日本語翻訳版です。

                   COVID-19と企業広告・マーケティング

この日本語翻訳版は、WE EMPOWER G7プログラム(2018-2020年)を通じて、欧州連合(EU)資金提供によって作成されました。WE EMPOWER G7は、国連女性機関(UN Women)、国際労働機関(ILO)および、欧州連合 (EU)による3ヵ年(2018年〜2020年)の国際協調案件です。「WE EMPOWER G7」の日本での展開をWE EMPOWER Japanが担当しました。

                       WE EMPOWER G7

レポートでは「コミュニケーションをジェンダー平等の観点から考慮すべきことを提案」しており「顧客や従業員に対して、COVID-19から身を守るための製品やサービスを紹介するなど、感染拡大によって変化した生活の現実を反映したコミュニケーションや、ソーシャル・グッドのためのイニシアティブに関するコミュニケーションを行なうことが考えられます」と記しています。

新型コロナという未知の呼吸器系感染症に対する危機感が高まっていた中、国際機関が「広告」に関するメッセージを発したのは、なぜでしょうか。

広告を含むコミュニケーションとジェンダー平等を関連づける議論は、この時、急に始まったわけではありません。多国間協議の場でもしばしば話題になっています。

2019年6月末に開かれたG20大阪首脳宣言は、女性のエンパワーメントについて、包括的に記していました。そこに、次のような記述があります。

「我々は、女性の雇用の質を改善し、男女の賃金格差を減少させ、女性に対するあらゆる形態の差別を終わらせ、固定観念と闘い(中略)ことにコミットする」「我々は、質の高い初等・中等教育の提供、STEM(科学、技術、工学及び数学)教育へのアクセスの改善及びジェンダーに関する固定観念の排除に向けた意識向上を含め、女児・女性教育及び訓練への支援を継続することにコミットする」

「我々」というのは、G20加盟国・地域の首脳たちで、G7加盟国の日本、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリス、カナダ、イタリアに、主要な新興国である中国、ブラジル、インド、アルゼンチン、インドネシア、サウジアラビア等を含みます。重要なのは、政治・社会・文化・宗教において多様な国や地域のリーダー達が「ジェンダー平等」や「女性のエンパワーメント」の重要性について合意している事実です。加盟国同士は、時に特定の案件で緊張関係になりますが、こと「ジェンダー平等」については、一定の合意ができているのです。

コロナの影響でビデオ会議として開かれた2020年11月のG20リヤド・サミットでも、首脳宣言の中に「我々は、ジェンダー平等を引き続き促進し、固定観念と闘い、賃金格差を縮小させ、無償労働及びケアの責務の男女間における不平等な配分に対処する。」と記されています。つまり、多国間協議の場では「固定観念」が女性の社会的地位向上や女子の教育機会を阻害しているという共通認識があるのです。

ここで言う「固定観念」は、女性の方が男性より家事育児に向いているとか、リーダーは男性の役割といった思い込みを指し、これを「ジェンダー・バイアス」と呼びます。特にメディアの発信が固定観念を助長したり、広めたりすることが多いことは、国際会議の場でよく話題になります。

そうした中、2017年にUN Womenは「アンステレオタイプアライアンス」を設立しました。これはジェンダーに関するステレオタイプ(偏見)をアン(なくす)し、ジェンダー平等な表現を目指す企業や広告業界の取り組みです。バイスチェアにユニ・リーバなど、メンバーにはGoogle、マイクロソフト、P&G、FB、Twitter、オグルビー、WPPなどが名を連ねており、支部はブラジル、日本、南アフリカ、トルコ、アラブ首長国連邦、イギリスにあります。日本支部は2020年5月にUN Women日本支部が日経新聞社と日本アドバタイザーズ協会と協力して設立し、私もアドバイザーを務めています。

では、ジェンダー平等な広告とはどのようなものでしょうか。冒頭に紹介したレポートは「3P」に着目することを勧めています。誰を取り上げるのかという「Presence(プレゼンス)」、誰の視点で描くのかという「Perspective(視点)」、そして登場人物の奥深さを示す「Personality(パーソナリティ)」が重要です。

このレポートでは、特に、仕事・家庭での教育・家事育児介護などのケアワーク・健康に関する広告を制作する際にジェンダー平等な表現にするための注意点をまとめています。

例えば「男の子/男性向きのスポーツ、女の子/女性向きのスポーツのように、スポーツの種類をジェンダー・ステレオタイプ化することを避け、女の子と男の子の運動能力とスキルを同等に表現する」、「母親だけではなく、父親も正しい手洗いの仕方を示したり、健康的な食事の準備をしている姿を描く。家族の衛生管理は母親や家庭内の女性の責任であるという誤ったイメージを助長しないようにする」といった具合です。

近年、広告など不特定多数に発信する際ジェンダーバイアスがあると、SNSなどで批判が集まり「炎上」することがあります。本コラムで紹介したレポートは企業広告を想定したものです。大学や研究機関も、発信がジェンダー平等になるよう、留意する必要があるので、参考になると思います。


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