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テレビドラマで、楽しみながらジェンダー視点を身につける(2021年8月16日掲載) 音声読み上げ


ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授、昭和女子大学研究員、東京大学情報学環客員研究員
治部 れんげ

このコラムをお読みの方は、大学や研究機関に所属しながら、ダイバーシティ推進や男女共同参画の教育・啓蒙に携わっていると思います。今回は、気軽にアクセスできて、楽しく見ているうちに自然とジェンダー視点が身につく、国内外のドラマをご紹介します。

私は現在「ジェンダーで見るヒットドラマ」に関する新書を執筆しており、最近半年間、ドラマ漬けの日々を送ってきました。担当編集者と議論しながら国内外の面白いドラマ、ジェンダー視点で優れたドラマを選び、視聴して分析するのは楽しい作業であり、男女共同参画に関する議論の敷居を下げてくれます。

最初に取り上げるのは、NHKの連続テレビ小説で10年前に放送された「カーネーション」です。大阪・岸和田を舞台に、洋裁屋を経営しながら3人の娘を育てた小原糸子(尾野真千子)という女性の一代記です。娘が3人とも国際的に活躍するファッションデザイナーになっています。この物語は、コシノヒロコ・ジュンコ・ミチコの母・小篠綾子の生涯をもとにしたフィクションです。

このドラマは、冒頭からジェンダー問題を感じる描写が続きます。主人公は呉服屋の長女で元気な女の子です。岸和田名物のお祭り「だんじり」が大好きで、父の仕事を手伝って着物の集金も上手にやります。けれども大正時代の当時、女性はお祭りの神輿をかつぐことはできません。旧民法下では女性に財産権はなく、どれだけ才覚があっても父の店を継ぐことはできないのです。学校でも、女の子はお嫁に行くもの、と教えられ、男子生徒からは「女のくせに」と馬鹿にされることもあります。

法制度、教育制度に女性差別が組み込まれていた時代に、糸子は「どうしてもドレスを作りたい」という思いを捨てきれず、夢をかなえます。頑固な父親を説得して洋裁を学び、貴重なミシンを購入してもらって、自分の店を持ちます。時代が和装から洋装へと移る転換期に、強い意志と大きな夢、卓越した行動力で、新しいビジネスを成功させていくヒロインの姿は、現代を生きる女性たちを励ましてくれます。糸子を応援する父親、夫、地元繊維組合の会長など、男性の動きも興味深く見られるでしょう。

ドラマで描かれる大正から昭和の社会背景、女性を取り巻く諸事情、男性に課せられる徴兵という重荷を見て、現代との違いや類似点を議論してみると、男女共同参画の意義が自然に伝わりそうです。

海外ドラマにもジェンダー視点でお勧めしたい作品がたくさんあります。中でもカナダの名作小説「赤毛のアン」を下敷きに現代的にアレンジした「アンという名の少女」は優れた内容だと思います。これはカナダのテレビ会社とインターネットで映画やドラマを配信しているNetflixの合同製作で、シーズン1のみNHKでも放送されました。

舞台はカナダ南東部にあるプリンス・エドワード島。海辺や林、湖などの美しい自然を背景に描かれます。アヴォンリーという農村に住む中高年の兄妹が、手違いにより孤児院から女の子を引き取る、という設定は原作と変わりません。

現代版の大きな特徴は、児童虐待、児童婚、女子教育、ヤングケアラー、黒人や先住民族差別といった深刻な社会問題を織り込んでいることです。中でも、本サイトのテーマに関係の深い、女子教育の視点を取り上げてみましょう。

「赤毛のアン」の原作は1908年、今から110年以上前に発表されました。同年、日本から初のブラジル移民が神戸港から出港、翌1909年に伊藤博文がハルビンで暗殺されました。カナダも日本も女性は参政権がありませんでした。

ドラマの舞台になるアヴォンリー村では、牧師が「女の子は結婚するまで家に置いておけばいい」と臆面もなく述べます。女の子の仕事は家事や育児であって、学ぶことは不要というわけです。アンの親友ダイアナは両親から進学を阻まれ、花嫁学校に行かされそうになりますし、クラスメートの姉は結婚のため進学をいったんあきらめざるを得ません。

そういう中、アンを引き取ったマシュウとマリラは「女の子も自分の人生を自分で選べるように」という価値観で、アン自身が望む教育を受けさせます。これが、当時としては革新的な考え方だったことは、村に住む他の大人たちとの対比で分かります。

ある時、村に新しい女性の先生が赴任してきます。彼女は夫と死別していますが、成人の独身女性が珍しい村では変な噂を立てられたり、結婚を勧められたりします。機械いじりや壁塗りなどの室内工事、男性的なファッションを好むこの先生は、村の子ども達に体験重視の革新的な授業を提供し、その好奇心に火をつけます。子ども達で新聞を作る課外活動を始めると、文才のあるアンは地域の様々なニュースを面白い記事にしていきます。

ところが、結婚に関する慣習を批判したアンの記事が、村の重鎮である男性たちの逆鱗に触れ、子ども達は新聞作りを禁じられてしまいます。大人の男性ばかりで、大事なことを決めるため公会堂に集まっていると、子ども達が乗り込んできて、言論の自由を訴えるシーンが印象的です。

このドラマでは、教育が因習から人を解き放つこと、子どもや女性に発言権がない地域コミュニティの課題や、それを草の根の動きで解決していく流れを見事に描いています。原作「赤毛のアン」が大好きな私も非常に満足度が高い作品だと思いました。楽しみながらダイバーシティについて学ぶのに良い教材と言えるでしょう。

国内外のドラマの中からお勧め作品を7本、リストアップしました。ダイバーシティやジェンダーに関する学内イベントの企画の参考にもなると思います。


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