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「ジェンダー平等」における「LGBT」の位置付けと、男女共同参画条例の変化(2021年5月25日掲載) 音声読み上げ


一般社団法人fair 代表理事 松岡 宗嗣

「ジェンダー平等」と「LGBTの問題」が“別のもの”として語られることがあります。どちらも、既存のジェンダー規範を問い、より公正なものにしていくという点で、多くの部分で共通する問題意識や課題があるはずです。

しかし、最近は多くの誤解によって両者の問題の「違い」に過度に注目が集まっている場面がしばしば見受けられます。

例えば、書類で「男性・女性・LGBT」という性別欄が用いられていることが定期的に報告されますが、これはLGBTが「男性や女性ではない第三の性」として捉えられてしまっている誤解があるでしょう。

他にも、両者が曖昧に整理されてしまっている場面も見受けられます。例えば、女性に対する差別や不平等について考えるイベントで、登壇者から「最近はLGBTの人々の問題についても…」という言葉が続き、違和感を覚えることがありました。

筆者はシスジェンダーの男性でゲイの当事者です。ゲイという部分ではマイノリティですが、シスジェンダーの男性という点ではマジョリティに属するでしょう。確かに「LGBT」は性的マイノリティの総称を表す言葉の一つとしても使われていますが、女性を取り巻く課題の延長線上で性的マイノリティについて触れる場合は、「LGBT」ではなく「LBT(レズビアン・バイセクシュアル・トランスジェンダー)女性」を指すことがより適切ではないかと思います。

国連の女性差別撤廃委員会は、2016年の日本政府に対する勧告の中で「LBTの女性」などのマイノリティ女性が「複合的かつ交差的な形態の差別を引き続き経験しているとの報告を懸念」し、「複合的かつ交差的な形態の差別を解消するための努力を積極的に行うことを要請する」としています。

2019年5月に開催されたイベントで金沢大学谷口洋幸准教授(当時)が示した国連機関からの勧告の一部。

2019年5月にパワハラ防止法が成立し、パワーハラスメントに「性的指向や性自認を理由とする侮蔑的な言動」、いわゆる「SOGIハラ」も含まれることになりました。これを背景に「第5次男女共同参画基本計画」では、第2分野「雇用等における男女共同参画の推進と仕事と生活の調和」や第5分野「女性に対するあらゆる暴力の根絶」で、性的指向や性自認に関するハラスメント防止が盛り込まれました。

なお、同計画では従来と同様に、第6分野「男女共同参画の視点に立った貧困等生活上の困難に対する支援と多様性を尊重する環境の整備」には、「性的指向・性自認に関すること」など「更に複合的な困難を抱えることがある」ため、「正しい理解を広め、社会全体が多様性を尊重する環境づくりを進めることが必要である」としています。

近年は、地方自治体のいわゆる「男女共同参画条例」にも、性的指向や性自認の視点を盛り込む動きが広がっています。

2013年の東京都多摩市の条例を契機に、例えば東京都豊島区や港区などの条例では、従来の「性別」に加えて、(または「性別等」と読み込む形で)性的指向や性自認について明記し、これらに基づく差別の禁止が規定されています。同時に、パートナーシップ制度の導入や、アウティング(本人の性のあり方を同意なしに第三者に暴露すること)の禁止なども加えられ、シスジェンダー・ヘテロセクシュアルの女性と男性という基準だけでなく、性的指向や性自認の観点からもジェンダー規範を問う形に改正されています。

3月8日に開催された「ウィメンズマーチ東京2021」では、トランスジェンダー女性の権利を含むジェンダー平等に関するプラカードも多く掲げられていました。

このように、ジェンダー平等の問題を基盤に、性的指向や性自認の視点からも規範を問う声、そして制度化という動きが広がってきています。

しかし、筆者が登壇したとあるイベントでは、参加者から「ここ数年でLGBTという言葉も広がってきて、今はもう“男とか女とかで分ける時代じゃない”ですよね」という言葉をかけられることがありました。別で登壇した女性差別や性的マイノリティに関する差別についても議論されたイベントでは、参加者からの質問の大半が「LGBT」についてだったこともあります。いずれも若い世代からの参加が多いイベントでした。

筆者としては性的マイノリティの課題に関心を寄せてもらえることが嬉しい反面、一抹の不安も覚えました。なぜなら、依然としてシスジェンダー・ヘテロセクシュアルの男性中心の社会においては、性的マイノリティの困難や差別の問題は、ここで繰り返しているように、ジェンダー規範の改善なしに解決することはできないからです。

もちろん性的マイノリティの存在も含めた、ジェンダーやセクシュアリティの平等について取り組む人も増えていると思いますが、その時私が感じたのは、「LGBT」に関する関心の高さが、ともすればジェンダー平等が“すでに達成されたもの”と位置付けられ、その次の課題として、自分とは異なる他者としてのLGBTを受け入れる話、と捉えられてしまっているのではないかという懸念です。

ジェンダー平等の問題と、LGBTの問題は同根だと述べましたが、今後ジェンダー・セクシュアリティに関する問題について議論したり取り組んだりする際は「いま、どの“切り口”からこの問題を捉えているか」を考えることがより重要になってくるのではないかと思います。

例えばジェンダー平等について取り組む際「シスジェンダー・ヘテロセクシュアルの男女のみ」を前提としている場合は、性的マイノリティなどの人々の存在が見落とされていることを問題提起していかなければいけません。同時に、「LGBT」を中心に議論されている場合は、シスジェンダーのゲイの男性と、レズビアンやトランスジェンダー女性などの置かれている状況が異なるように、従来からの男女平等の観点を加味して考えられなければならないでしょう。

女性への差別や暴力、ジェンダー平等の問題とLGBTに関する問題の“優先順位”が測られてしまう場面もありますが、女性の中にはレズビアンやトランスジェンダーなどの女性もいることから、優先順位の話ではなく、常にセットで進められるべき問題であることがわかります。同じ構造に対し立ち向かっているからこそ、“同時に”この問題を取り組むことができるのではないでしょうか。