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職場のSOGIハラと複合的な困難 - 「女性」かつ「性的マイノリティ」が置かれている状況(2021年6月23日掲載) 音声読み上げ


一般社団法人fair 代表理事 松岡 宗嗣

依然として職場などでのセクハラ被害は報告されており、連合が2019年に実施した調査によると、女性の約4割が職場でセクシュアルハラスメントを経験しています。

男女雇用機会均等法のいわゆる「セクハラ指針」では、主に性的な関係を強要することや、性的な写真やポスターを貼るなどをセクシュアルハラスメントとして位置付けています。

これは同性間や性的マイノリティに対するものも含むと規定されていますが、例えば、飲み会でレズビアン女性に対し「レズなのは男を知らないからじゃないか?」、トランスジェンダー女性に対し「下どうなってるの?」といった“侮蔑的な言動”は、上記のような性的な“関係”などが想定されないことから、場合によってはセクハラに該当しない可能性があります。

そこで、2019年に成立したパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)では、性的指向(Sexual Orientation)や性自認(Gender Identity)に関する侮蔑的な言動、いわゆる「SOGIハラ」や、本人の性のあり方を第三者に暴露する「アウティング」も、パワーハラスメントに含められ、企業等に防止対策が義務付けられることになりました。

                    厚生労働省が作成したパンフレット

こうしたハラスメントの実態は、酷いものだと「レズビアンなら良いだろうと胸を触られた」というSOGIハラかつセクハラ、性暴力とも言えるような事例から、「良かれと思って」やったことがハラスメントに該当し得る可能性があるというものまでさまざまです。

例えば、あるレズビアンの当事者が会社の取締役に呼び出され、そっとLGBTに関する本を渡されたというケースがあります。きっと取締役は“理解”を示すために本を渡したのでしょう。しかしこの後、カミングアウトした上司が勝手に取締役、ひいては人事にまでアウティングしてしまっていたことが発覚します。この当事者は「社内の誰が自分がレズビアンであることを知っているのか、人事評価に影響してしまうのか」と疑心暗鬼になってしまい、結果的に退職することになってしまいました。

他にも、実際に訴訟が起きているケースでは、大阪府のある病院に勤務する看護助手の女性が、「男性だったこと」を上司が同僚に暴露してしまい、その後「気持ち悪い」などSOGIハラや差別的な発言を受け、自死未遂をしてしまったという事件も報道されています。

虹色ダイバーシティと国際基督教⼤学ジェンダー研究センターが行った調査では、LGB他の27%、トランスジェンダーの37.6%が職場でのアウティング被害を経験しています。さらに連合の調査でも、LGBTを身近に感じる人のうち約6割が職場でLGBTに関するハラスメント見聞きしたことがあると回答。まだまだSOGIハラやアウティングが多くの職場で起きてしまっていることがわかります。

            日本労働組合総連合会「LGBTに関する職場の意識調査」2016より抜粋

さらに、LBT女性などは、ハラスメントのみならず、職場での待遇に関しても不利な状況に置かれていると言えるでしょう。

厚生労働省が委託実施した、LGBTに関する職場実態調査をみると、シスジェンダー※1・ゲイ男性のうち最終学歴が「大学・大学院卒」が75.6%に対し、シスジェンダー※1・レズビアン女性は50.6%。年収を見てみると、ゲイ男性のうち「100〜300万円未満」は8.9%であるのに対し、レズビアン女性は30.9%でした。

同様の調査として前述の虹色ダイバーシティと国際基督教⼤学ジェンダー研究センターの調査を見てみると、シスジェンダー※1・異性愛男性のうち「年収200万円未満」は4.7%に対し、シスジェンダー※1・バイセクシュアル女性は43.5%、出まれた時に「女性」と割り当てられ、現在はXジェンダー※2と自認する当事者では50.4%にのぼりました。

同調査では、シスジェンダー※1・バイセクシュアル女性や、出生時「女性」のXジェンダー※2、またはトランスジェンダー女性の約4〜5割が「非正規雇用」と回答しており、シスジェンダー※1異性愛者の男性やゲイ男性などとの差が見られます。

いずれの調査結果も過度に一般化はできませんが、「女性」である、または本人の自認にかかわらず周囲から「女性」と認識される人々が、さらに性的マイノリティであることで不利な処遇に置かれていることがわかります。

職場におけるジェンダー平等を進める上で、こうした複合的な差別や不平等の観点を盛り込みながら、セクハラや、そしてSOGIハラ・アウティングを含むパワハラなど、あらゆるハラスメントの防止対策の徹底が求められています。

※1 シスジェンダー:生まれた時に割り当てられた性別に違和感がない、性自認が一致している人
※2 Xジェンダー(エックスジェンダー):性自認が男女どちらでもない、どちらとも言い切れない、あるいはいずれにも分類されたくない人


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