【北海道ブロック】ダイバーシティの理想像―多種多様な生き方(2021年11月29日掲載) 音声読み上げ
北見工業大学 工学部 教授 川村 みどり
私は高校時代に材料分野に興味を持ち、北海道大学在学時に、無機材料の研究室に所属していました。恩師の稲垣道夫先生、島田志郎先生は国際共同研究を数多く手がけておられ、研究室も外国人留学生・ポスドクが常に在籍するアクティブな雰囲気の中で学ぶことができました。また、M1の夏にアメリカの化学会社でインターンとして働く機会を得ました。そこで目にしたのは部門のトップが女性でその秘書が男性という日本では考えられない組み合わせや、インターン仲間の女子学生のドクター進学への前向きな姿でした。先生方の勧めに加えてその事にも触発され、私もドクターへの進学を決めました。学位取得後、現在の北見工業大学に着任し、薄膜材料工学分野の研究に従事するようになりました。「薄膜」は文字通り薄い膜という特徴を有する材料の名称で、私自身は、ナノレイヤを活用して省エネルギー用途の各種薄膜の高性能化・高安定化を図ってきました。材料の評価に関しては共通点が多かったですが、学生時代とは全く異なる作製法やそれに必要となる真空技術等、研究室の阿部良夫先生から丁寧にご教授頂き、新たな研究分野に挑戦することができました。現在は新たな取り組みとしてポーラスな金属膜の作製にこれまでのノウハウを活用すべく、国際共同研究の日本側代表者として参画しています。
プライベートでは、二人の子供に恵まれました。実家が離れていて助けを求めることができなかったので、同じく研究者である夫と全て分担してやり繰りしました。特に子供が就学前は急な発熱も頻繁にあり、その度にお互いの予定を見比べて、休暇を取得できる方が休んでいましたが、やはり大変でした。また、一時間単位で取得できる時間休も沢山使いました。ただ、同時に地方都市に住むメリットも感じました。例えば、仕事を終えて保育園に迎えに行き、夜間診療のある小児科に立ち寄り、それから帰宅して夕食の準備をする事もかなりあったので、「もし大都市に住んでいたらどうなっていたのだろう」と思いました。職場には先輩の女性研究者はいませんでしたが、事務職員の方に子育てに関する助言を色々と頂きました。また同年代の子育て中の男性の同僚にもたびたび相談して助言を頂きました。社会的な制度や職場の環境等、徐々に整備されている一方で、女性側からみるとまだまだ不十分と思える状況もあると思います。また、職場以外でも親を含めて周囲の人から理解が得られないことに悩み、落ち込むこともあるかもしれません。しかし「全てが整った環境はない」と割り切って、自分にできるところまで頑張ってみよう、という考え方も大事なのではないかと思います。
これまでずっと性別を意識せずに研究者生活を送ってきましたが、最近状況が大きく変わりました。学内にダイバーシティ推進室が設置され、副室長として活動を始めています。結果的に学内の女性教員同士の交流機会が増えたのは私自身にはプラスになり、大学としても良かったのではないかと思います。性別を意識せずにいられたことは恵まれた環境だったという事ではありますが、一方で私自身の中で無意識のうちに「女性同士のネットワーク」に対するネガティブな感情があったかもしれません。海外生活において現地の人達との繋がりに加えて、日本人同士のネットワークも重要であるのと同様に、女性同士の繋がりを持つことの大切さ・楽しさを今は実感しています。
立場上、北海道内のダイバーシティネットワーク内のロールモデル座談会で先輩研究者としてお話しさせていただいたこともあるのですが、一般的に使用されている「ロールモデル」という言葉には引っかかりも感じます。まるで誰もが目指さなくてはならない一つだけの理想像が存在するかのような印象を受けるからです。でも実際は年齢、配偶者や子供の有無など色々な生き方や考え方の女性研究者が存在しており、多種多様な人達が研究職という仕事を楽しんでいるというのが私の描くダイバーシティの理想像です。私自身もその中のサンプルの一人として若手研究者の方々の参考になるのでしたら幸いです。