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【北海道ブロック】視点が変わることがプラスとなる 〜妊娠が判明したら私と周囲の生活が変化しました〜(2022年11月14日掲載) 音声読み上げ


北海道国立大学機構 帯広畜産大学 人間科学研究部門 准教授 中馬 いづみ

私は現在、母校である帯広畜産大学(以下、畜大と略します)人間科学研究部門で教養科目の生物学を担当しつつ、専門分野である植物病理学の教育・研究を行っています。出身は兵庫県で、学部時代を畜大で過ごし、その後は博士前期課程からポスドク・助教時代を神戸大学大学院農学研究科植物病理学研究室(以前は自然科学研究科)で過ごしました。その後、2018年より現職に就きました。研究は、「いもち病菌(Pyricularia属菌)の寄生性分化に関わる染色体構造変異について」が一貫したテーマですが、フィールドでの植物病観察が好きなことから、他の病害についての研究や病害診断も行っています。

 ポスドク時代から助教時代にかけて、神戸大学の男女共同参画推進室より手厚い支援をいただきました。当初はジェンダー・バランスやワーク・ライフ・バランスなど考えたこともなく、おそらくこれらの言葉が浸透しはじめた時代でしたので、とても新鮮で、大先輩の女性研究者のお話にはたいへん興味を持ちました。それでも自分の私生活はというと、30代の頃は「私は一生独身で、子供のいない人生を楽しむのだろう」と思っていました。ところがその後、研究室の卒業生である後輩と結婚することになり、43歳で娘を出産しました。当時周囲の方が私の妊娠を知ると、おもしろいことに、今まで私には全く聞こえなかった妊娠・出産情報が猛烈な勢いで入ってきました。妊婦の私と会話をすると皆、妊娠・出産・育児についての何らかのアドバイスをして下さるのです。42年生きてきて、今まで知ることのなかった未知の世界が突然目の前に広がり、驚きと幸せに満ちた妊婦生活でした。その頃、夫は国家公務員で関東に勤務していました。私の出産と同時に夫は1年間の育休を開始し、育休明けに大阪に勤務するよう配慮していただきました。それから私が2018年に畜大に赴任するまでの約18ヶ月が貴重な同居期間となりました。その頃は育児修行のような時代でありましたが、その間に家族で岩手での学会・沖縄での調査に参加したことは大変良い思い出となっています。

 20182月に畜大から採用通知をいただき、娘の託児先が決まったのは着任2日前でした。採用決定から着任後しばらくの間、子連れ女性教員としての働き方と育児のことで心配や困難が次々と浮上しました。思ったことは言いたい私ですので、周囲のあらゆる方々に話を聞いていただき、皆さんよく話を聞いてくださったことに感謝しています。その中で、単身赴任の定義について、エピソードを書かせていただきたいと思います。着任後、単身赴任手当の申請をしようとすると、これは家族を伴うため単身赴任に当たらないと言われました。私が一人で帯広に引越せば「単身赴任」に当たるそうです。夫の方でも職場に申し出てみたのですが、夫は元の家に残留しただけで転居が伴わないため、単身赴任に当たらないとのことでした。このような定義は是非見直していただく必要があると思いますし、「単身赴任」ではないということですので、「単身残留」あるいは「子連れ赴任」、「別居家族」のように別の表現を使用する必要もあると思います。単身赴任手当の話には続きがあります。翌年夫は転職し、北海道の公立研究機関の研究員になることが決まりました。赴任地は旭川近郊で、初めての北海道での一人暮らしをすることになりました。そして着任後、やはり単身赴任手当の申請をしようとすると、「同居していたところから転居する」必要があるそうで、今回も単身赴任に該当しないということになりました。それでも、夫は旭川にいた3年間、旭川から帯広まで毎週末欠かさず通い、1年間娘と離れた時間を取り戻そうとしてくれました。20224月より、夫は十勝に転勤となり、現在は家族3人で生活しています。次に転勤となれば、単身赴任と認めていただけることになると思われます。

 ところで、畜大は関東以外からのアクセスが容易ではない道東に位置し、私のように幼児をかかえて子連れ着任するような女性教員はなかなか存在しません。実際、畜大史上、出産を経験した女性教員は、私の他に現役教員2名のみで、3人とも卒業生です。そのような事情もあり、子連れ女性教員が着任するということは、大学にとっても未知のことだったと察することができ、着任後は、「17時に帰り、土日祝日は一切出勤できない」ことに周囲は大いに困惑したようです。会議や講習は17時以降、皆それが普通だと思っていたという状況から、着任後5年目となる現在は、そのようなことは少なくなりました。これは、大学内の男女共同参画推進室の方々をはじめ、学内の多くの方々が努力してくださった成果だと思います。着任当初は毎月担当職員と面談があり、これも大きな助けとなり支えていただきました。着任から1年半たつと、研究支援員を配置していただくようになったことも大きかったと思います。また、周囲には育児中の男性教職員が複数おり、理解者が大勢いるということも良い環境が整う要因だと思います。男性も女性も、家事と仕事のどちらもやりたいという気持ちは変わらないと思います。

 最後に、育児(長期育休)はスキルアップに繋がると、私は信じています。日々娘と接し、大学生と接するその経験が、育児にも仕事にもプラスに働いていると感じています。出産したことで、ヒトが受精卵となってから産まれ、幼児期になるまでの過程をつぶさに見ることができました。これによって、自分の人生の中のブラックボックスであった、誕生前後に起こったであろうことが明らかとなりました。それにより、学生に対しても、産まれ育てられた歴史を感じるようになりました。他にも、日常生活の様々なところで育児経験は役立っており、その殆どは「視点が変わった」ことにあると思っています。新しい経験により視点が変わることはあらゆる場面で大小様々に起こりますので、今後もそのような経験をポジティブに重ねることができればと希望を持っています。


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