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【近畿ブロック】好きなことは止められない(2023年8月21日掲載) 音声読み上げ


大阪大学大学院 理学研究科 化学専攻 教授 赤井 恵

女性研究者としては年長な方になり、皆さんを応援する側に廻ってきたように思います。研究者としての職業を続けてもうすぐ30年になろうとしますが、皆さんに送れるメッセージはありきたりですが「研究が好きなら止めない」です。

私が研究者になろうと思ったきっかけはありません。大学に入ったときから漠然と大学に残りたいと思っていたからです。小学校の卒業論文の将来の夢は「学者かスパイ」と書きましたので、子供の頃からなんとなく予感はあったのでしょう。大学は理学部の物理学科を選びました。ただ、特別勉強ができたわけでもなく、特別な才能があったわけでもないのに、何故か大学という場所がとても好きだった私がいました。大学好きといっても学部では授業ではなくサークル活動を満喫し、成績もぼろぼろでしたが、大学院に入ると研究はとても面白く、早々に英語の論文も二報書くことができました。勉強できなくても研究はできるんだ!!と喜んだことを覚えています。親のお金もありませんでしたが、奨学金を貰って博士課程に進むことにも迷いはありませんでした。

ただ、博士取得後はそんなにストレートにはいかず、山あり谷ありの難儀な道でした。期限つきポスドクを10年転々とし、助教を12年続けながら結婚して子供を二人持ちました。仕事に絶望して布団のなかで泣いていたら小さな娘に背中をよしよしされたこともあります。そんな生活の中で二つだけこれだけはと守ってきたことがあります。一つは「仕事を辞めないこと」もう一つは「子供を持つこと」これ以外のことは多少(笑)犠牲にしてでもこの二つだけを大事に生きてみました。

研究者は厳しい仕事だと思います。いつも論文のこと、ポジションのこと、プロモートのこと、予算獲得のことばかり考えています。いつも誰かと比べられ、自分も自分を誰かと比べて落ち込みます。私もきらきらと輝くような研究者を見ては何故そんな良いデータが出るのかそんなたくさん論文が書けるのかと未だに妬ましくてたまらず、自己嫌悪に陥ります(私だけでしょうか)。そんな中でもやってこれたのはやはり、研究という仕事が好きだったからです。

研究って何でしょうか。勿論誰もやったことのないことをやってみせる、作ってみせる。誰も知らないことを解き明かすのが研究だと思いますが、私は最近「何をどのくらい知らないかを知ること」が研究でとても大事だと思っています。大学というところは、昔は勉強を教わるところだと思っていましたが、最近は自分や人が「どれくらい何を知らないか」を知る為の場所ではないかと思っています。最近また理学部に戻ってきましたが、若い学生さんからも、心の中から「研究したい」という声が漏れ聞こえる人が沢山います。そんな若い人達が研究者という職業に憧れてくれるよう、お洒落もして、なるべく廊下ではスキップして楽しそうにするようにしています(ちょっと誇張)。皆さんも好きなこと、楽しいことを是非楽しんでください。最後に大好きなモハメド・アリの言葉を送ります。

Don’t be who someone wants you to be. Be who you want to be. Fly! Butterfly!

誰かが望む人間になろうとするな。自分がなりたい自分になれ。飛べ!蝶よ!

 

 

 


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