【北海道ブロック】自分らしい人生を歩むように(2024年1月4日掲載) 音声読み上げ
北海道大学大学院情報科学院 生体情報工学コース 情報生物学研究室
博士後期課程1年 CONG YI
職業や夢に「優劣」はなく、また、個人の視点から見れば、性別差は微々たるもので、重要なファクターではないと思います。すなわち、社会の規範や他人からの期待よりも、自分の内なる声と向き合うことで、自分がなりたい人になり、自分の望む生活を送ることが重要だと考えています。大人になると、新しいことに挑戦する際に「私にはその分野の基盤がない」「私にはその才能がない」「今さら学び直すのは遅い」「もう安定した生活を築く年齢だ」と躊躇ってしまう人もいるかもしれません。自分自身、研究者としては未熟であり、アドバイスをするのは大変恐縮ですが、これから研究者を志す人々に対して、自身が持っている知識や社会環境に囚われず、挑戦することの大切さを伝えたいと思います。
私は中国からの留学生です。生まれは特別裕福というわけでもなく、平凡な生活を送っていました。家族は「足るを知る者は富む」と信じており、小さいころから高みを目指すというよりは、現状に満足する姿勢に慣らされてきました。実際大学時代には留学が富裕層にしか関係のないものだと考え、縁を感じることすらありませんでした。卒業後も友人と一緒に仕事を探し、面接に参加し、就職して、「普通に」社会で生きてきました。しかし就職後、これといった困難に直面したわけでもないのに、何のために生きているのかわからなくなり、このような生活は私の望むものではないということに気付いたのです。
改めて自分と向き合ってみると、ただ社会の規範に適応することや、他人からの期待にも応えるために時間を費やすことは自分のやりたいことではありませんでした。「私のやりたいこと」は、もはや何も変えられない環境の中でただ生きることではなく、留学し新しい環境で研究者としての道を歩むことだったのです。ただ、留学を考えたことはなかったため、基礎知識もなければ、語学資格もなく、日本語すら全く分かりませんでした。また、周りにも「もう家庭を築く年齢だ」と言われており、家族からの理解を得られず経済的な支援がない状況に直面しました。しかし非常に幸運なことに、現在所属している研究室の教授から連絡をいただき、条件が必ずしも優れていない私を受け入れることを積極的に検討してくださいました。先生には心から感謝しています。先生のご指導のおかげで、その2年後に今の研究室に入ることになり、北海道大学への留学の夢が叶いました。また、今日の私があるのは、両親のおかげでもあります。両親は私の行動が理解できないことが多かったにもかかわらず、最終的には私を尊重し、自分の道を選択させてくれました。意見がぶつかってしまう時もありましたが、本当に感謝しています。
今では日本に来てから3年が経ちました。所属している研究室のテーマはバイオインフォマティクスという生物学と情報科学の融合分野であり、その中で私はパソコンを使って様々なオミクスデータを解析しています。具体的には機械学習を用いたドラッグリポジショニング(既存薬再利用)の方法開発や、シングルセルのRNA-seqデータクラスタリングによる未病状態検出についての研究を行っています。今年、私は無事に修士号を取得し、博士課程に進学しました。ここでの生活は私の理想の通りで、忙しい研究の日々も、多様な選択に寛容になりつつある社会にも、魅力を感じています。
実を言うと、私は研究の時間を厳密には決めていません。基本的には何日も続けて研究に打ち込んでいますが、たまには数日間の休みを取ってリフレッシュすることもあります。一般に言う「健康的な生活」とは少し違うかもしれませんが、私にとっては、自分の時間を自由に使い、研究に情熱を傾けていられることが非常に有意義なのです。
今の私は十年前の自分が考えたこともなかった人生を歩んでいます。この変化を起こしたのは、たったの数年です。さらに言えば、私を変えたのは「決意をする一瞬」だったと思います。
月並みな表現にはなりますが、過去の出来事は変えられません。しかし、未来は変えることができます。私たちが過ごしている「今日」は、これからの人生の中で一番若い日なのです。