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【東北ブロック】ほんとうのところ、「ダイバーシティ」や「多様性」ってなに?(2024年2月6日掲載) 音声読み上げ


東北文教大学 人間科学部人間関係学科 教授 阿部 裕美

今や普段の生活の中で「ダイバーシティ」や「多様性」、さらには「インクルージョン」といった言葉をとてもよく耳にします。ですが、いずれの言葉も正直言ってわかりにくいと思っています。「多様性の時代」に生きる者としては常識なのでしょうが、「ダイバーシティ」や「インクルージョン」ないし「インクルーシブ」については、外来語の中でもとりわけ難解であるように思います。だとすれば、ここで少し言葉の意味を確かめておいた方がよさそうです。

例えば『研究社英和中辞典』で diversity を引いてみると、「多様性」「種々」「雑多」という意味が最初に出てきます。予想どおりの訳語ではあるのですが、実際どのようなものをイメージしているのでしょうか。ここで一つ、英単語を正確に理解するためのコツを紹介します。確認すべきは、品詞別の意味です。「ダイバーシティ」は名詞ですが、この語が直接派生した形容詞の意味、そしてさらに遡り、動詞として何を意味するのかまで探ってみることです​。​厄介な手順ではありますが、その言葉の様相が想像しやすくなります。

まず、形容詞である diverse の意味を見てみると、「種々の」「多様な」に加え、第二項として「別種の」「異なった」と記されています。注目すべきは「別」の語で、本家のような存在あってこそ成立する言い回しである点です。また、大元のラテン語源からは「曲がる」の意味が継承され、本筋からの「逸れ」のイメージが伴います。

次に、動詞 divert にまで遡ってみると、「逸れる」さまがいっそう明確になります。第一項 「(対象を)〜から〜へ転換する」「わきへ向ける」から第二項「注意を〜からそらす、転ずる」の意へ、そして最終的には「(人の)気を晴らさせる」「慰める」という比喩的表現に至ります。つまり、「ダイバーシティ」という単語には、本流に属しながらも枝分かれにより個体が生じる、分化のプロセスが含まれます。源から逸れることで生じた存在は向く方向がまちまちで、その気ままさに自由や個性が宿るというわけです。

と、ここまで英語の授業ごとく理屈っぽく説明してみましたが、私個人としては呑み込めていない気もしています。県外の学生も主に韓国からの留学生もいる山形の小さな地方大学に勤務していますが、多様性尊重のグローバルな流れを自分事にしにくい環境でもあります。しかしながら、国籍の違いに限らず、個人として様々なタイプがあり、個性的な考えや行動の持ち主に出会う機会は沢山あります。

そこで、常に心掛けているのが「インクルージョン」のマインドです。「内に含めいれる」ことであり、多様性が機能するために欠かせないものですが、すべてを一括りにすることとは違います。異文化理解やジェンダー研究においても重要なスタンスなのですが、「差異」に阻まれることなく、つかず離れずの距離感を調整し続けることが大切であると考えています。社会の在り方で言うなら、直接的に繋がらなくとも、根底で価値観を共有する他者同士が同じコミュニティを構成している、という認識に相当します。この語は時に「インクルーシブ」と形容詞形でも使われますが、同化を強いる負の側面を弱める言葉遣いになっています。

多様性の素晴らしさを表すものとして、金子みすゞ作品から「みんなちがって、みんないい」というフレーズがよく取り上げられます。この世界観はとてもステキなのだけれど、少し注意が必要かもしれません。「みんな違っている」ことは自分と無関係であることを意味し、「それでいい」と言い放つ無責任な姿勢にもなりかねないからです。そうではなく、互いの立ち位置を保ったままゆるりとした集まりであるならば、文字どおりに様々な人が当たり前にいる場ができるはず。気負いのない間柄だからこそ視野の端で互いの存在を認識でき、互いの動きに自然に反応することができるのではないでしょうか。簡単ではないでしょうけれど、言葉や考え方を確かめながら歩みを進められるといいですよね。


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