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【九州・沖縄ブロック】工学部女子学生ロールモデル育成に関わった9年間とこれから(2024年2月14日掲載) 音声読み上げ


宮崎大学 工学教育研究部工学基礎教育センター 准教授 大榮 薫

近年、あらゆる分野で女性の活躍が期待され、産業界も理工系の技能を習得した女性を求める傾向が強まっており、女性の理工系人材育成を充実させる大学が増えています。私が所属する宮崎大学工学部では、2024年度に実施される推薦入試から「女子枠」を新設し、総定員370人のうち女子生徒を14人受け入れることになりました。それと並行して、2023年4月に宮崎県内の大学としては初めてJSTの「女子中高生の理系選択支援プログラム」に採択され、宮崎県内の女子中高生が理工系の進路を選択することを支援する事業を進めることも決定しました。とはいえ、本学部の女子学生数は2022年度までの7年間平均で11.3%にとどまっており、この数値は全国平均の15.7%を下回り、理工系の人材を確保するために女子学生の増加と育成が本学部の課題といえます。

私は分離工学の研究者です。博士課程が工学系なので工学部に所属していますが、大学は農学部を卒業しました。高校の時に化学系の大学への進学を希望していたので、農学部と工学部のどちらも興味をもち悩みましたが、最終的には農学部を選びました。工学部に進学した高校の先輩から聞いた「工学部には女子学生がほとんどいない」という言葉に、工学部入学後の大学生活や将来のことを不安に感じ、工学部で学ぶ自分をイメージできなかったことが工学部を選ばなかった理由の一つだったように思います。もし、工学部に女子学生がいて卒業後に社会で活躍する卒業生いわゆるロールモデルがいたら、私は工学部を選択していたかもしれません。約40年後の今でも工学部の女子学生数は十数%程度で圧倒的に男子学生が多く、私と同じような気持ちで工学部への進学に不安を抱く女子中高校生がいると思います。女子中高校生にとっての将来像をイメージしやすいロールモデルの育成が工学部女子学生数増加には必要ではないかと思いました。

2008年に宮崎大学は文部科学省科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」事業に採択され、女性研究者比率の増加を目標に女性教員の研究助成、働きやすい職場環境づくりなどに、私は工学部からの代表の一人として取り組むことになりました。一部の男性教員からは「工学部女性教員数が3名と少ない状況下でなぜ女性教員限定の研究助成公募があるのか」、「逆差別ではないか」などのネガティブなご意見を聞く機会があり、精神的に落ち込んだこともありました。そんなとき、チャンスは巡ってきました。

当時の学部長から工学部女子学生にフォーカスした企画を提案してほしいとの依頼がありました。学部長は女性教員数の増加は難しいので次世代へのアプローチとして工学女子のロールモデル育成を取り組みの目玉にしたいとのお考えのようでした。早速女子学生数名から聞き取り調査し、就職活動に役立つ内容を希望する学生が多かったことから、元客室乗務員の外部講師による「面接に役立つ実践的スキルアップセミナー」を開催しました。約30名の女子学生が模擬面接の実践トレーニングを受講し、最初は声が小さく自信のない様子だった学生が、セミナー終了時には通る声でハキハキと話せるようになり、学生の成長する姿に私は心を動かされ、成長する機会の場づくりの大切さを実感することができました。以降、工学部女性教員と女性技術職員で構成される工学部女子学生を支援・応援するプロジェクトチームを作り、現在も継続して大学予算を獲得して工学部の女子学生が学びやすい環境づくりや交流の場づくりとして、女子学生のやる気を刺激する様々なイベントを展開しています。具体的には、ランチ交流会、スキル向上セミナー、OG講演・交流会の三つを主軸に実施しています。この内容はFacebook等で公開し学外へ情報発信をしています。最近では、交流会の企画や進行を担う女子学生や後輩学生の抱える進路、留学、学業などの悩みを相談できるOGも育っています。そして、OGの一人には今年度のJST事業で講演をしてもらい、参加した女子中高生および保護者に対して工学女子のロールモデルとして工学部進学後の未来像を示すことができたと思います。

本学部は、これまでに女子大学生を支援・応援した活動で培ったノウハウを発展させてJST事業で理工分野に興味をもつ女子中高生を開拓して工学部選択を促進し、並行して「女子枠」の推薦入試で進学した学生の不安解消、意欲強化などを支援する体制を整えています。そして次年度には数名の助教が採用され女子大学生の身近なロールモデルとなる女性研究者数が増えます(とはいえ全教員数の1割にも満たないですが)。少しでも多くの女子中高生に工学部を選択してもらい、卒業後も産業界で活躍する工学系の女性研究者・女性技術者が増えることに期待したいです。


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