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【北海道ブロック】アカデミアの世界を目指して~研究とプライベート~(2024年11月26日掲載) 音声読み上げ


帯広畜産大学 生命・食料科学研究部門 准教授 三上 奈々

修士課程から別の大学に移って研究を始めた私にとって、M1の終わり頃は1年間実験をしてやっとデータが出てきた時期でした。実験にも慣れて研究に“浸り始めた”と感じた頃です。予想した結果がでる時もあれば裏切られる時もあるけれど、今まで誰も知らなかった真実に近づけるような気がして、必死に実験していたのを覚えています。私は食品の健康機能性の研究をしていたので、“体にいい効果”が求められがちですが、良くない効果もあって当然で、そのことも包み隠さず評価できるアカデミアの世界にほのかな思いを寄せていました。一方で、就活も始めなければならない時期でもありました。実験もしなきゃいけないけど、同学年の友人はどんどん就活を進めている・・・。フワフワした気持ちと焦りの中、周囲の雰囲気に流されて数社の企業の試験を受けてはみたものの、数十社受けている(本気で就活している)人たちには太刀打ちできるはずもなく、どうしたいのかもよくわからなくなりました。そんな時、私の迷走ぶりに見兼ねたのか、指導教官が「ドクターコースに行きたいなら、鍛えてやるから」と言ってくれました。本心を見抜かれていたのかもしれません。背中を押され、進学することに決めました。

博士課程に進んでからは、将来研究者としてやっていきたいと思いながらも、結婚したいし、子供も2人くらいほしいな・・・とぼんやり考えていました。ただその時の自分の生活は、毎日夜中まで研究室にいて(それでもデータが出なくて)、研究者をしていたらきっと一生こういう生活から抜けられないだろうなとも思っていました。その時お世話になっていた私の近くにいる女性研究者といえば、3人の子育てしながらバリバリ研究もしていたり、研究以外のアウトリーチ活動も活発にしていて、皆パワフルなスーパーウーマンばかり。精神的にもタフですし、人柄もとても素敵な人です。彼女らに憧れる一方で、研究だけで手一杯の自分に、将来それ以外のプライベートなことを望むのは難しいと思っていた時期でもありました。

博士の学位を取って4年が経った頃、初めてパーマネントの職を得ることができ、大学の助教として研究をしていました。食品成分の機能性を臨床試験で調べていて、着任して2年くらいは面白いデータをなかなか見つけ出せず、歯がゆい時間が続きました。しかし、さらに解析を進めていくと、その成分は皆に効果があるのではなく、効き方は個人が持つ遺伝子型によって変わる、特に生活習慣病のハイリスク遺伝子を持つ人に効果がある、ということがわかりました。一捻りある面白いデータに出会えて、やっと一つ成果を形にできたという喜びと、当時のボスに研究者として認めてもらえたという達成感を味わったひとときでした。論文も書いて特許も申請できて、自分の研究人生の中ではイケイケドンドン(今の学生さんはわからないかも?)な時期です。私の人生はそういう時にいろいろと重なることが多く、プライベートでも縁があり、結婚することになりました。なるべく家族は一緒に住んだ方が良いという親のススメもあり、同居する方向で考えたのですが、夫は私の勤務地から3時間ほど離れたところに住んでいて、一緒に住むとなるとどちらかが仕事を変えなければならない状況でした。前述の通り私は研究が盛り上がってきた時で辞めたくなかったですし、夫も仕事が好きそうだったのでそれを変えてもらうのもちょっと違うなと感じ、すごく迷いました。この時、博士課程時代に思っていた「仕事もプライベートも両方とも自分のなりたい様になれるのか?」という課題に、まさに直面した時でした。やはりすべて希望通りというのは難しくて、それでも研究やプライベートをうまくやっていくためには、優先順位をつけるしかないなと思いました。私の場合、1.なるべく家族と一緒に住む、2.研究を続ける(分野は問わない)、3.できれば食品や栄養の研究をする、という順番だったので、転職することにしました。

それから7年経った現在、ありがたいことに家族と一緒に生活しながら、大学で食品加工の研究をしています。以前の研究を続けたかった気持ちもたまによぎりますが、転職が新しい分野に飛び込むきっかけを与えてくれたことも事実です。「研究とプライベートの両立はできるか?」という問いに、100%で両立することは難しいと思いますが、上手く折り合いをつければできなくはない、というのが今の答えです。

現在は妊娠・育児期や介護のために人的・費用的なサポート制度ができていたり、子連れで学会に行こうと思っても大会側で託児室を準備してくれていたり、と研究が継続できる状況が整いつつあります。今思うと私が学生だった頃(15年くらい前)はまだそのような仕組みがしっかりしていなかったと思います。あの時の憧れていた女性研究者の方々は、まだまだ環境が整備されていない中、本当に苦労されながら研究者を続けていたのではと想像しています(タフに見えていたけど、スーパーウーマンにならざるを得なかったのかもしれません)。その先輩たちの歩みのおかげで、今こうして研究者を続けられていることに感謝します。


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