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【関東・甲信越ブロック】公共図書館における読書犬プログラムの可能性(2025年2月18日掲載) 音声読み上げ


筑波大学 人間総合科学学術院 人間総合科学研究群 情報学学位プログラム
博士前期課程 1年 豊冨瑞歩

私は図書館情報学を専攻しており、主な研究テーマは「読書犬プログラム」です。読書犬プログラムとは、公共図書館などにおいて、子どもが読書犬(セラピードッグ)に本を読み聞かせるという音読プログラムのことを指します。読書犬は、子どもが本を読み間違えたり読み詰まったりしても反応することはなく、子どものそばに座ったり寝転んだりして、寄り添って音読を聞いています。読書犬プログラムは、1999年にアメリカ・ユタ州の公共図書館で開始され、2016年からは日本の公共図書館においても同様のプログラムが始まり、その後徐々に広まりはじめています。

アメリカの公共図書館において読書犬プログラムが発祥した頃は、主に音読や識字、読書が苦手な子どもたちを対象に、読書犬の存在によって少しでもリラックスした状態で「読み」に取り組めるようにすることを目的としていました。「読み」に苦手意識を持つ子どもたちは、過去の失敗体験や心理的な不安、不十分な教育機会、発達障害、ディスレクシアなど、さまざまな課題を抱えていることがあります。そのため、学校や日常生活において困難を感じることも少なくなく、こうした子どもたちが持つ様々な課題を、読書犬プログラムは一歩ずつ解決に繋げてきました。

読書犬プログラムでは、読み聞かせ中に読書犬の監督者としてそばにいるハンドラー(飼い主)も、子どもの音読に対して指導や指摘をすることはありません。応援のつもりでかけた言葉も、音読が苦手な子どもにとってはプレッシャーになったり自信を失う原因になったりする可能性があるためです。このように指摘や指導を受けないことが保障されている読書犬プログラムは、子どもたちが安心して音読に取り組むことができる環境であるといえます。また、プログラムの実施目的として、子どもの心理的な成長や自己肯定感の向上などの効果を掲げている図書館が複数あります。

私は、日本の公共図書館で実施されている読書犬プログラムにおいて、プログラム実施団体のボランティアとして活動しています。日本の読書犬プログラムは、プログラムに関心のある子どもは誰でも申し込める傾向にあり、読書や音読が好きな子どもも好きではない子どもも参加しています。いずれの子どもたちも、読書犬プログラムの参加前と参加後で表情を大きく変えていることが多く、読書犬が子どもたちにもたらすリラックス効果を感じることができます。また、私が活動への参加を続ける中で印象的なのは、プログラム参加者だけでなく図書館利用者からも好意的な反応が寄せられていることです。日本の図書館利用者にとって、図書館の中に犬がいるということは、慣れないこと、あるいは驚くことであると思われます。しかし、これまでに積み上げてきた図書館への信頼が前提となって、図書館利用者は図書館が提供するサービスの拡大や新しい取り組みに期待している段階にあるのかもしれません。

子どもが公共図書館で得る体験や経験は、生涯を通して持つ読書や本に対する印象にも大きな影響を及ぼします。私は、公共図書館が子どもにとって安心して「読む」ことができる場であり続けられるように、そして読書や音読に対して抵抗感のある子どもたちにも公共図書館のサービスが届くように、今後も研究調査を通じて読書犬プログラムの可能性を追究していきたいと考えています。


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