【東海・北陸ブロック】多様性って、なんのため?~自分とキャリアと社会をつなぐカギ~(2025年4月23日掲載) 音声読み上げ
北陸先端科学技術大学院大学 未来創造イノベーション推進本部 未来知識創造機構
知識イノベーション研究センター 特任准教授 元山 琴菜
近年、「多様性は大事だ」と言われる一方で、「多様性疲れ」や「過剰な配慮が窮屈だ」という声も聞かれるようになってきました。アメリカではDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)への反発や規制も広がり、社会の中で多様性をめぐる意見や感情は大きく揺れ動いています。
それでもわたしは、多様性を尊重する視点は、今この時代にこそ必要であり、わたしたち一人ひとりの人生にも、社会の未来にも欠かせないものだと考えています。
わたしは社会学を専門とし、多様性の包摂と共生社会の実現をテーマとした研究に取り組んできました。社会には“当たり前”とされる構造があり、そのなかで「ちがい」はしばしば排除や無関心の対象になります。わたしは、性的マイノリティをはじめとする社会的に見えにくい立場の人々の語りを通して、そうした構造を可視化する研究に取り組んできました。わたしの研究の出発点は、子どもの頃に感じた、ある素朴な違和感でした。ある日、迫害されているネイティブアメリカンの人々の写真を見たとき、「この人たちは何も悪いことをしていないのに、なぜこんな目に遭っているのか」と疑問を抱き、不条理さを感じました。その感覚は、大学で出会った社会学や女性学(最近は、ジェンダー学とも言われます)によって、「もやもや」から「問い」へと変わりました。
大学での教育活動では、グローバルな視野をもち、多様な人と協働できる学生を育てることを目指し、異なる背景や価値観を持つ人同士が対話し、学び合える環境づくりに取り組んできました。近年では、社会イノベーションをおこせる博士に関する研究プロジェクトに携わらせてもらい、RRI(責任ある研究・イノベーション)の理解促進にも関わってきました。そうした中で、科学技術と社会の接点やそこにおける研究者の責任について考えることがますます増えました。
こうした実践を通じてわたしは、多様性の尊重は、社会全体の質を高め、一人ひとりが自分らしく生きられる社会の創造の鍵であると実感しています。ちがいを活かすには、誰もが安心して力を発揮できる環境が必要です。そしてそれは、一部の人々のためだけではなく、誰にとっても使いやすく、心地よく、安全な社会をつくることにつながるのです。
さらにわたしは、こうした視点が個人の成長にも欠かせないと考えています。
「ちがい」は時に、分断や軋轢、理解の齟齬を生む原因となります。他者とのちがいに出会い、向き合う経験は、時に迷いや戸惑いを生みますが、その過程でわたしたちは自分自身の在り方と丁寧に向き合うようになります。自分が何を大切にし、何が得意で、どこに限界があるのかを理解していく過程でもあります。そうして初めて、他者と対等に向き合い、力を合わせることができるのではないかと思います。そして、リーダーシップとは、誰かを導く力ではなく、自分と他者をつなぎ、変化を起こしていく力だと、わたしは考えています。
わたしのキャリアゴールは、「一人ひとりが自分らしく生きられる社会」をつくることです。
多様性は、社会を豊かにする視点であると同時に、わたしたちが自分自身を理解し、他者とつながるための力でもあります。とはいえ、ちがいに向き合いながら他者と連携することは、そう簡単なことではありません。どうすれば異なる立場の人どうしが協働できるのか、そしてそのつながりをどう広げていけるのか、その問いに向き合いながら、これからも試行錯誤を重ね、実践を続けていきたいと思います。