【中国・四国ブロック】研究者の産休・育休は本当に休暇となるのか?(2025年9月8日掲載) 音声読み上げなし
愛媛大学大学院農学研究科 生物環境学専攻環境保全学コース 准教授 水川 葉月
仕事や昇進といったキャリアと、結婚・出産といったライフイベント。この2つの間でワークライフバランスをどう取るかは、女性にとって重要な問題ですよね。
私の場合、20代~30代前半までは自分のライフプランをまったく考えていませんでした。結婚や出産なんて、きっと私の人生には無縁。まずは研究・仕事だ!楽しい~♪という感じでした。
ありがたいことに、私の研究人生は順調に進み、助教、パーマネントの准教授と職を得ることができました。研究生活は楽しく、職位が上がるにつれて責任も増し、すっかり「ワーク中心」の生活になりました。
ところが新型コロナのパンデミックで研究のペースが落ち、研究・仕事以外の時間が出来ました。そのタイミングで自分のライフプランをゆっくり考える時間を持つことができたのです。気づけば30代半ば。そういえば、これまで「自分のこれからの人生をどう生きたいか」と深く考えたことがありませんでした。体力的にもこのままのペースで研究をできるろうか、本当に結婚しなくても後悔のない人生を送れるだろうか。コロナ禍のステイホームの時間は、私のこれからを考える人生にとって必要な時間になりました。その後、縁あって結婚し、出産することになりました。
さて、自分が産休・育休を取るなど想像したことなかったので、いざ、取得してみると大変なことがいっぱいでした。
とくに大変だったのは授業です。私が担当していたのは、1人で半期すべてを受け持つ授業やオムニバス形式の授業、学生の卒論指導など。休暇中、どう対応すべきか悩みました。他の先生に頼もうにも、すでに先生たち自身の授業で手一杯ですし、専門分野も異なります。これまでの女性の先輩方はどうしていたんだろうと思い、伺ってみたところ、「自分は若い時に出産したから、担当授業は少なかった」「全部、他の先生に任せたよ」といった声が返ってきました。
なるほど、キャリアを積んでから産休・育休を取ると、休暇中に止まってしまう仕事や、誰かに頼まなければならない仕事がこんなにも多いのか、と驚きました。対応としては他の先生にお願いするのが妥当なのかもしれませんが、昨今、地方国立大学は財政難に直面しています。人事面でもすぐに補充が出来ず、ただでさえ教員の平常時の負担が大きい中で「私の授業もお願いできませんか?」と言い出すのは難しい状況でした。
結局、私の担当していた授業のほとんどは非同期型の遠隔授業とすることにしました。しかし、産休前にも授業や卒論発表会、会議、引継ぎなどが詰まっており、休暇前にゆっくり教材作りをする余裕はありませんでした。その結果、育休に入っても、毎週パワーポイントに音声を吹き込む教材作りをコツコツやることになり、休暇といいつつ仕事もする状況となりました。
産休・育休中の仕事をどう他人に頼むか、不在中のフォローをどう行っていくか、といったサポート体制は、民間企業と比べても国立大学ではまだまだ不十分なのかもしれません。特に研究者の場合は専門性が高いため、「誰かが代わりにできる仕事」ではなく「自分にしかできない仕事」になってしまいます。
本学には「キャリア支援」と呼ばれる産休・育休期間も含めた研究支援員の雇用予算をいただける制度があります。私も申請させていただき、無事に採択されましたが、実際に支援いただいた金額は募集要項に記載されていた最大額の約1/5に減額されていました。理由は「応募者が多かったため」とのこと。正直なところ、今回の支援額では「キャリア支援」として不十分であり、雇用した研究支援員だけでは仕事を捌けないため、私自身がやらないといけないことがありました。
こうした状況もあり、女性研究者の産休・育休は本当に休めるのかな?みんな多かれ少なかれ、休暇中も仕事をしているんじゃないの?と思っています。
大学における研究者の産休・育休へのサポート体制は、今後さらに改善・改革が必要ではないかと強く思います。これから産休・育休を取りたい研究者に、安心して取得してもらえるように、今回のコラムが役に立てばいいなと思います。