【中国・四国ブロック】「ダイバーシティ」をめぐる思い(2025年9月29日掲載) 音声読み上げなし
愛媛大学社会共創学部環境デザイン学科 准教授 入江 賀子
愛媛でもダイバーシティという言葉がかなり頻繁に使われるようになりました。私は大学教員になる前に、大学外で長く仕事をしてきましたので、職業キャリアの点からの多様性を感じることは多く、ダイバーシティ政策が推進されることに好感をもっています。
ただ、大学でのダイバーシティの推進の必要性をあまり感じない人もいるかもしれませんし、ひとそれぞれの考え方や合理的理由もあるように感じます。大学は長く学校教育を受けてきた教員が多く働く組織という特徴があると思います。ですので、企業や自治体などの組織よりもダイバーシティが自然発生的に進むきっかけが少なく、職業キャリアの多様性がおのずと低くなる傾向があるように思います。実務を経験した教員を採用する流れが多くの大学で見られる中、職業キャリアのダイバーシティ推進のあり方をいろいろ考えることもあります。
そこで、大学におけるダイバーシティの推進の意義を少し考えてみたいと思います。私は、純粋理論系の研究分野については分かりませんが、実際の社会経済を対象とした研究分野では、長期的に価値のあるブレない研究をしていくために、社会経験は必須の基盤であるという気がしています。例えば、私は、環境分野のイノベーションの社会経済的な価値について研究していますが、そのために、これまでの職業経験が重要なインサイトを与えてくれています。
私は職業経験を通じて、短期的に儲からないCSR活動(今でいうSDGsやCSVの活動)を何故行うのか、その結果、どういう変化をもたらしたかといった、社会経済のプロセスや企業の論理を知りました。また、産業分野のイノベーションのプロセスやダイナミズムを知り、イノベーションが人々や社会経済にどのような影響を与えるのだろうか、どのようなイノベーションに価値があるのだろうか、という学生時代から持っていた興味関心によりダイレクトに向き合うことができました。
企業が担うイノベーション活動は、新たな価値創造の源として眩しく感じましたし、企業は社会経済の価値創造の源泉である面白い組織だと考えるようになりました。これらの経験のおかげで、イノベーションに関わる分野は、私が継続的に探究していきたい研究テーマになっています。社会経験を通じて学生時代の素朴な疑問が篩にかけられ、今の私の研究テーマになっているという実感があります。
大学外の職業経験を持つことは、研究にとっては回り道という考え方もあるかもしれないですが、私自身、関連した業務経験により、自分の中に何か確実で確かな研究対象を作ることができた気がしています。多様な職業キャリアの人材の採用、という意味でのダイバーシティの推進は、大学においても、ブレない価値創造のためにきっと役立つのではないかと思っています。