【九州・沖縄ブロック】女性研究者支援事業の開始から20年目を迎えて(2025年9月12日掲載) 音声読み上げなし
九州大学 男女共同参画推進室 教授 上瀧 恵里子
2006年に始まった文部科学省の女性研究者支援・人材育成に関する補助事業[1]も今年で20年目を迎えました。当時担当していた九州大学の外部資金獲得業務の一環として2006年からこの事業に携わりましたが、正直なところ「男女共同参画社会基本法」(1999年)の詳細や「国立大学における男女共同参画を推進するために」(2000年)の提言[2]も、この時初めて知ることになりました。
当初はこの補助事業開始で大学の男女共同参画はどんどん進み、10年もすれば各大学の男女共同参画推進室も不要になるのではと期待していました。しかし、期待に反し10年目には私自身が「男女共同参画推進室」の専任教員となるに至り、まだまだやることは尽きない状況でした。2020年代に入ると他大学では関連部署の名称が「男女共同参画推進」からより範囲を広げた「ダイバーシティ推進」へと変化したところが増えました。所掌範囲は拡大しましたが、もともとの大学における男女共同参画はまだ道半ばではないかと感じています。
私自身は「女性研究者支援モデル育成」〔九州大学採択期間:2007-2009〕、「女性研究者養成システム改革加速」〔2009-2013〕、「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(特色型)」〔2015-2020〕、同(先端型)〔2019-2024〕、同(調査分析)〔2021-2022〕と、申請準備や事後評価対応も含め、程度の差こそあれ20年間途切れることなく女性研究者支援・人材育成に関する5つの補助事業に携わってきました。
この20年を振り返ると女性教員比率は、国立大学全体では冒頭に紹介した2000年の提言の「2010年までに20%の目標」を14年遅れで2024年に達成し、九州大学も2007年の7.8%から2024年には17.4%に増加しています。スピードはゆっくりですが、増えていることは確かです。両立支援のためのインフラも全国の大学で整備が進み、学内保育園の設置、ライフイベントで多忙な研究者への研究補助者措置、出産・育児による中断からの復帰支援、ベビーシッター利用支援、出張時の子ども帯同経費支援など、各大学でそれぞれの事情に応じた取組みが整備されてきました。採用や人材育成に関しても女性限定公募の他、女性研究者を対象とした研究費支援、海外渡航支援、共同研究支援、表彰する賞の創設、上位職登用に向けた研修など、大学毎に工夫を凝らした取組みがなされています。
私よりも年上の1970年代以前に大学に入学された世代の方は、順次整備されてきた多様な支援や取組みに感心され、「私たちの頃よりもっと頑張れそうですね。」と仰る方もいます。確かに20年前にはほぼ皆無であった様々な取組みが実施されるようになりました。補助事業が始まった頃はまだ聞いたことも無かった「無意識のバイアス」や「性別役割分担意識」についてもここ10年で広く認識されるようになり、意識改革に向けての対応策も検討されるようになってきました。しかし、まだ充分とは言えない気がします。
数か月ほど前、偶然手にした中央教育審議会の答申の文章に「女性や高齢者、障害者、我が国以外の国籍を持つものを含む多様な人材…」[3]という表現を見つけました。ここに「男性」という言葉がありません。本来ならば「男性や女性や高齢者…」と書くべきでは。この文章をまとめた方々は無意識のうちに、男性と女性は対等ではない、同列に並べるものではない、と思われているのかもしれません。そうだとすれば「何か未だ足りない」と感じる要因の一つになりうると思われます。色々なインフラ・制度は20年前に比べれば飛躍的に整いましたが、まだまだ意識の改革には時間がかかりそうです。
女性研究者支援に長年尽力され、2023年に逝去された大坪久子先生[4]が「若手は実力をつけ、機会を逃さずチャレンジし、先行者は後から来た人を引き上げる努力をしてください」という言葉を残されました。私自身20年間女性研究者支援事業に当事者として携わりましたが、先行者としての努力は充分だっただろうかと自問しています。
大学も含め、真の男女共同参画社会の実現には長い道のりが続いています。次の世代の方たちにも、この20年間の積み重ねの上に、男女が対等に評価され、共に責任を分かち合い、共に輝ける社会の実現を目指していただくことを切に願っております。
[1] 2006年に科学技術振興調整費として開始され、現在は科学技術人材育成費補助事業として実施されている。
[2] https://www.janu.jp/active/txt6-2/h12_5/02_01_01.html
[3] 中央教育審議会「我が国の『知の総和』向上の未来像~高等教育システムの再構築~」(答申) 令和7年2月
[4] ポリモルフィアVol.9, pp.40-45 (2424年3月) ISSN 2424-1113
https://hdl.handle.net/2324/7348008