【九州・沖縄ブロック】自分らしく輝ける場所を探して〜(2025年10月20日掲載) 音声読み上げ
佐賀大学 副学長(国際担当) 坂本 麻衣子
佐賀大学国際交流推進センター センター長
佐賀大学医学部地域医療科学教育研究センター 国際健康科学部門 教授
「仕事と家庭を両立できるのか」という質問は、結婚をして家庭を持つことを考えている女性にとって常につきまとう課題です。私もそのひとりですが、私の経験をご紹介することで、もっとリラックスして毎日の生活をエンジョイして頂けたらと思います。
私は大学を卒業してすぐに米国大学院に進みました。東海岸のペンシルベニア州フィラデルフィア市にあるMCP Hahnemann大学で修士号を取得し、行動療法士として重度の自閉症児の療育に関わっていましたが、彼らの行動を理解し最善の治療を行うためには、脳の機能と感情・行動を理解しなければいけないと考え、臨床心理学の中の、より専門分野である神経心理学を学ぶために、改めて大学院への進学を目指しました。アメリカは学費が高いので、学費免除かつ奨学金を出してくれるDrexel大学への入学を考えましたが、年間3人しか入学できないため、400倍という想像を絶する受験倍率でした。毎日勤務後、すぐにBordersという本屋さんでTOEFL (Test of English as a Foreign Language) とGRE (Graduate Record Examinations)のテキストをひたすら解くという勉強漬けの毎日を2年間続け、遂に合格することができました。大学院博士課程では、入学直後から臨床実習が始まり、朝から晩まである講義と膨大な量の課題との両立が大変でしたが、楽しくてたまらない毎日だったことを鮮明に覚えています。そして大学院6年目にはInternshipを行うため、マッチング制度を使って西海岸のUniversity of California, San Diego校 (UCSD)に行き、臨床心理士・神経心理士の資格を取り、UCSDで6年間勤務しました。
アメリカでの16年間は、「大好きなことをやっている!」という大満足の時間でしたが、UCSDにはエリートの研究者が集い、3, 4ヶ国語話せる人が沢山いる中、私自身の「能力を活かせる場所はどこなのか」、「輝ける場所はどこなのか」と考え始めました。そして、神経心理学があまり浸透していない日本で、次世代の臨床家・研究者を育てたいと帰国を決断し、今に至っています。
キャリアを含めて、自分の人生を充実させているのには、3つの重要なポイントがあると思います。1つ目は人との出会いです。私が今ここにいるのは、私を励まし支えてくれる人に、常に囲まれているからです。平井タカネ先生、Mary Spiers先生、Marc Norman先生など錚々たる研究者・医療従事者の先生方の存在はもちろんですが、「母」としての役割が全うできない時には、地域の子育てサポートセンターの方や友人に頼ることもあります。つまり、研究者・母親としての成功のカギは、人との出会いを大切にし、味方になって頂ける人との繋がりに対し常に感謝の気持ちを忘れないということです。
2つ目は、何事においても最後まで諦めないことです。「外国人でこのプログラムに合格できた人はいない」、「外国人で臨床心理士の国家試験を1回で受かることは無理」など、厳しい言葉を言われることが多いのですが、私はそれをモティベーションに繋げることが上手だと自負しています。「それだったら私が最初の外国人になれば良い」「私が1回で合格すれば、次の外国人の励みになる!」と自身を鼓舞して臨んできた結果、どの目標も達成しています。現在、国際神経心理学会の理事を務めていますが、アジア圏出身者初として選出されました。「諦めず努力を積み重ねれば夢は必ず叶う」ということの生証人かもしれません。この2点目と繋がっているのが3つ目のポイントですが、どんなことでも楽しむことです。大好きなことであれば、高い壁が立ちはだかっていても、目標に向かって楽しめるはずです。自分で決めて進もうとしている道なのですから、自由と責任のバランスを取りつつ、楽しむべきです。この「道」はキャリアだけではなく、「家庭を築く」ことも含んでいます。自分で決めた「人生」なのですから、「責任を持って謳歌」するべきです。それが、今までの道を開拓してくださった、諸先輩方への敬意でもあると私は考えます。
私は、大した助言を差し上げることはできませんが、皆さんに輝いて欲しいと思います。人生山あり谷ありですが、困難な時でも笑顔を忘れず、ひたすら努力を続けていれば、必ず助けてくれる人が現れます。また、研究・教育、そして育児を楽しんでいる様子を発信すれば、周りにも良い影響が伝達していきます。私事ですが、10月1日からは、佐賀大学の副学長を拝命し、国際交流や留学生の教育などを任されています。年齢・性別・国籍に関わらず、教職員、学生の皆さんが輝くことのできる学びの場を提供できるよう、私も「自分らしさ」を大切に、引き続き輝くことを忘れないで尽力していけたらと思っています。