【北海道ブロック】
本学初の産休・育休取得教員として子育て世代が働きやすい職場にしたい(2020年9月16日掲載) 音声読み上げ
帯広畜産大学 畜産フィールド科学センター 准教授 川島 千帆
帯広畜産大学は国立大学唯一の農学系単科大学です。名前に「畜産」とあるように牛・馬・羊・豚・鶏の家畜を対象とした畜産学および獣医学分野の研究はもちろん、大学のある北海道十勝は広大な農業地帯であるため、農作物を中心とした植物生産科学や農業機械学、これらの環境をとりまく農業環境工学や生態学、得られた農作物や畜産物の加工や機能について研究する食品科学等、多岐に渡る教育・研究を行っている大学で、私の母校でもあります。大学時代は乳牛の飼料に関する研究を行い、修士課程修了後は食品会社に就職しましたが、研究を続けたい気持ちが大きく、家畜の繁殖学の研究室に研究員として4年間従事しました。この間に博士号を取得して、2007年に現在の所属である畜産フィールド科学センターに着任し、現在に至ります。本センターには約180頭の乳牛が飼育されており、私はこの乳牛を対象に主に分娩後の繁殖機能の回復と栄養状態との関係をテーマに研究しています。
着任当時の女性教員数は片手で収まる人数、しかも大動物を扱う女性教員は私を含めて2名しかおらず、教員が産休・育休を取得した前例のない大学でした。また、私の採用から助教は任期付きになったため、その新制度も含めて2009年に妊娠・出産した際は色々と大変でした。それはもちろん、私だけなく周りの教職員や研究室の学生も含めてです。私の担当授業は座学より家畜を使った実習が多く、妊娠してもつわりが無かったため、妊娠前と同じ働き方をしていたのですが、妊婦には負担が大きかったようで妊娠初期に切迫流産で入院し、退院後も出産まで動くことが制限されてしまいました。前例のないことは想像以上に大変で、入院中も所属学生の指導や受け持ちの授業のやり繰りを自分自身で対処するしかなく辛い思いをしましたが、このことをきっかけに妊娠の重みを強く認識し、自分の置かれた状況に向き合うことができました。出産後は所属学生を抱えていたこともあり、4ヶ月半で復帰しましたが、よく息子を連れて大学に来ていました。学生や教職員のみなさんに子連れで仕事に関わることを快く受け入れてもらい感謝しています。学会等にも連れて行くことが多く、10歳になる今まで17都府県に20回も一緒に行きました。子連れの出張は荷物が多く費用もかさみますが、普段長い時間一緒にいられない分、出張先でおいしいものを一緒に食べ、長く過ごせることは楽しみにもなっています。もうすぐ一緒に行ってくれなくなる年齢になるのかと思うと寂しい気もしますが、良い思い出がたくさんでき、一緒に来てくれた息子や費用がかかっても出張同行に同意してくれた夫に感謝しています。また、妊娠・出産・子育てを機に妊娠期の栄養状態と産子の発育に関することにも興味がわき研究範囲が広がったことも息子のおかげだと思っています。
このように多くの人に助けられながら今に至りますが、私の後の産休・育休取得教員は非常に少なく(1名)、子育てと仕事を両立させる制度が不十分であると感じています。他大学に比べると遅いですが、4年前に本学にも男女共同参画推進室が立ち上がり、発足時から室員として、昨年度からは室長として、自分自身の経験を振り返り、少しずつですが、女性教員だけでなく、男性教員も含めて子育て世代が働ける環境を整えているところです。さらに、世の中の意識改革にはこれから子育て世代になる学生に伝えることも重要ですので、今後は学生に向けた取組も進めたいと考えています。今のところ、残念なことに私を見て子育てしながら仕事をするのは大変そうで自分には無理と言われることの方が多いです。きっと余裕なく見えるのでしょう。それでも子育ても仕事も楽しいし、両立が当たり前という世の中になることを目指して、次の世代のために動くことが私の使命であると心に決め、これからも努力していこうと思います。