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【総括】ダイバーシティとインクルージョンの観点からの企業職場環境調査(日本アイ・ビー・エム株式会社 曽和 信子氏) 音声読み上げ


日本アイ・ビー・エム株式会社 IBMコンサルティング事業本部
シニア・デリバリー・エグゼクティブ  曽和 信子

2018年度に国立大学法人大阪大学を幹事機関、国立大学法人東京農工大学及び日本アイ・ビー・エム株式会社を協働機関として文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(全国ネットワーク中核機関(群))」に採択され、文部科学省と連携して、女性研究者を取り巻く研究環境整備や研究力向上、意識改革や働き方改革等に取り組む大学、研究機関等をつなぐ「全国ダイバーシティネットワーク」が立ち上がりました。現在、北海道から沖縄に至る182 の国公私立大学、研究機関等が参画し、全国的な活動を行っています。本事業の取組のひとつである「ダイバーシティとインクルージョンの観点からの企業職場環境調査」について、2019年度から2021年度調査報告書が完成しました。ここに総括いたします。

女性のキャリア推進における現状は、調査を開始した2019年度調査では女性は現在より高い職位に就ける可能性はあると思っているものの、高い職位に就く意欲自体が男性よりも弱い状況が見られました。その背景には「高い職位に就くように育成されてきていないために手を挙げられない」「高い職位にいる人たちに希望を持ちづらい」といった認識が関係していそうな状況が見られました。最新の2021年度調査では、部長相当以上に就くことを希望する女性の割合が顕著に低減し、役員相当を希望する男性の割合が増加したことで男女格差が拡大する結果となりました。

また、日頃から難易度の高い仕事を任されることによって、上司の信頼を感じたり、経験値を積むことにより自信をつけ、より責任の大きな職位に就く意欲を醸成することができますが、今後より責任の大きな職位を展望する年代である45歳未満の層における男女を比較すると、難易度の高い仕事を任される頻度の違いがより顕著であることが調査からわかりました。依然女性は男性に比べてホットジョブ経験が少なめであることより、組織としては、女性がホットジョブにかかわる機会をより積極的に創出していくことが重要となります。

女性活躍推進やダイバーシティ&インクルージョン推進の進度が進むほど、男性を中心に女性がより優遇されているという見方、いわゆる逆差別が発生しているのではないかという見方が強まりがちです。Equality(平等)とEquity(公平)の概念が正しく理解されていないことも多いため、この点の理解を浸透させることが喫緊の課題となります。

これらの結果を総合的に見ると、女性活躍推進やダイバーシティ&インクルージョン推進に取り組む中で、女性に対してより気に掛ける、成長してもらおうという上司や組織的な気遣いはあるものの、組織の重要な意思決定に際して意見を求めたり、具体的な期待を伝えることで、女性の本質的な貢献を促していく点においてはまだ改善余地がありそうです。これは「インクルージョンの」実現に関する課題であり、組織として女性の活躍推進を真に組織の多様性からの便益に繋げる上での重要なステップを踏んでいくことに他なりません。

最新の調査結果より、「人として尊重されている」「成長を促してもらっている」と感じる割合に男女間ギャップはない一方で、意思決定に際して傾聴されたり、組織のミッションに連なる形で自分の仕事の重要性を感じたり、心理的に安全な環境で難しい議論をしたりできているかという観点で見ると、女性は男性に比べてそれらの実現度が低い水準です。収束しないコロナ禍において、テレワークや在宅勤務の継続、同じチームでも働き方が異なるハイブリッドなワークスタイルが定着しつつある中、会社の目指す方向性と各人の仕事を関連付け重要性ややりがいを感じられるパーパスについてのコミュニケーションが一層求められると考えられますが、特に女性に対しては具体的な期待やフィードバックを伝える一層の努力が必要です。

この調査期間に新型コロナ感染が拡大し、働き方とワークライフバランスに対する多くの人々の意識に変化が起きたことは誰しもが理解できるでしょう。ワークライフバランスに対して、「長時間働いている人ほど成果を認められやすい」という考え方が顕著に後退している点に表れます。背景として、リモート・在宅勤務の普及により、職場に残って長時間働くことを美徳とする見方が弱まったものと見られます。一方、仕事と子育てとの両立のしづらさは、女性が「両立のしづらさ」をより強く訴えられています。リモート・在宅勤務にあっても、仕事と子育てとの両立がしやすい環境づくりは引き続き課題になります。テレワークを活用したリモート・在宅勤務を含む組織全体でのハイブリッドワークに即した業務の進め方や評価制度の整備が待たれる状況を示唆しているからです。

最後に、少子高齢化が進む日本において、この数年のコロナ禍で経験した新たな働き方への取組をより推進し、女性だけでなく誰もがより働きやすい環境を整備することが、その未来を作ることに他ならないことを私たちは認識し、更なるダイバーシティ&インクルージョンを実現していきたいと認識できたことをご報告します。

<参考>
2021年度調査報告書
2020年度調査報告書
2019年度調査報告書
・企業対談はこちらのページから


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